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時事

高額療養費見直し凍結

府医ニュース

2025年3月26日 第3103号

社会保険の根本を問う

 政府による高額療養費制度の見直しが迷走している。当初、令和7年8月から段階的に上限額を引き上げる方針を示していたが、今年2月には長期的な治療の負担額を据え置くと修正された。さらに3月には来年以降の引き上げを再検討すると発表し、その1週間後には制度全体の見直しの是非を問う姿勢へと転じた。こうした方針転換の繰り返しは、政策の信頼性を損なうものであり、国民の不安を招く結果となっている。
 厚生労働省が6年11月に公表した資料によれば、国民医療費は平成27年から令和3年の間に7%増加したのに対し、高額療養費の支給額は14%増加しており、医療費全体の伸びを上回っている。特に、75歳以上の高齢者人口は22.8%増加し、後期高齢者医療制度の支給額は24.4%増加、1件当たりの支給額も31%増加した。これらのデータは、高齢化と医療費の高騰が制度の財政を圧迫している現実を示している。
 岸田文雄内閣では「異次元の少子化対策」の財源確保のために社会保障費の歳出改革が図られた。その際、6年秋からの全世代型社会保障構築会議にて高額療養費制度の見直しが俎上に上がった。議事録を見直すと、各委員から見直しに肯定的な意見が出た様子が伺える。しかし、当事者やその家族から出た悲痛な反対意見によって、今年度予算が追加した後で修正がなされた。
 さらに、国会質疑で出た、自己負担を増やすことで受診抑制が起こり結果として医療費が減少するという「長瀬効果」は、短期的な視点に基づいたものであり、重症化リスクによる医療費の増減は長期的な視点で検証されていない。
 一方で、政権与党らは社会保障費の抑制策の一環として、OTC(一般用医薬品)類似薬の保険適用の見直しや、医療DXの推進による4兆円の医療費削減を目指している。特に、OTC類似薬に関しては、現在約6千億円が保険適用されており、その適用を見直すことで一定の財源を確保しようという狙いがある。しかし、この措置は患者に自己責任下での薬の使用を促すことになり、誤った服薬や病状の過小評価による健康リスクの増大が懸念される。
 うがった見方だが、高額療養費の改正は、OTC類似薬の民主党政権からの悲願である保険収載薬剤の保険外し(漢方薬の保険外しなど)実現のためのショック・ドクトリンだったのではないだろうか。本丸がこちらだったいう意味だ。
 社会保障制度の改革には、医療の効率化や無駄の排除だけでなく、医療を支える人材や技術の充実、そして社会全体で負担を分かち合う仕組みの強化が不可欠ではないだろうか。政府には、目先の財政負担軽減にとらわれず、国民の生命と健康を守るという社会保障制度の本来の目的を見失わない慎重な議論を求める。医師会は高額療養費のみならず、保険収載薬の保険外しにも強く反対することを望む。(隆)