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府医ニュース
2025年3月19日 第3102号
サンドボックス(sandbox:砂場)とは、もともとコンピューターセキュリティー用語で「隔離された環境」を指す。日本の規制緩和や経済特区政策において、この用語が頻繁に登場する。新しいビジネスモデルや技術革新を促進するため、一定条件下で規制を一時的に緩和し、実証実験を許可する政策である。佐治敬三氏の「やってみなはれ」精神とも通じる発想だ。
日本ではフィンテック、自動運転、スマートシティー、遠隔医療などでサンドボックス政策が導入され、キャッシュレス決済の普及など一定の成功も見られる。しかし医療や教育といった社会的共通資本への適用には慎重さが求められる。
実際、英国では2012年にNHS(国民保健サービス)に市場原理を導入し、医療提供体制の一部を民営化した結果、医療費自己負担額は増加している。特に低所得者層の医療アクセスは大きく悪化した。米国ではオバマケア導入で、未収医療費(医療費不払い)が増えたとの可能性も指摘される。
このような社会保障制度のビジネス化は、日本にとって他人事ではない。例えば高額療養費制度の見直しも、サンドボックス政策的な「とにかくやってみなはれ」発想で進められているように映る。しかし、医療制度は一度改変すれば元に戻すことは困難である。保険証廃止の際も十分な議論が尽くされぬまま決定され、同様の危険性が今再び高額療養費制度にも及んでいる。
特に医療や教育分野で規制緩和を行うと、患者と医療従事者、あるいは生徒と教育関係者の関係性は、「消費者とサービス提供者」へと変容する。この発想が社会的共通資本を「ビジネスモデル」へと置き換え、最終的に制度資本の質・公平性が損なわれることは明白だ。
新自由主義(ネオリベラリズム)は市場競争と規制緩和を重視するが、公的事業のビジネス化は結果的に多くの人々を不利益に追いやる。特に国民皆保険制度は、日本が長年守ってきた最も重要な社会的共通資本である。高額療養費制度はその根幹を支えるものであり、試行錯誤の対象にすべきではない。(真)