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医師・医療関係者のみなさまへ

第45回大阪の医療と福祉を考える公開討論会

府医ニュース

2025年3月5日 第3101号

ネット・ゲーム依存の低年齢化

 大阪府医師会は1月23日午前、第45回「大阪の医療と福祉を考える公開討論会」を開催(後援:毎日新聞社・MBSラジオ・大阪府地域医療推進協議会/昭和56年から実施)。「楽しみと危険の境界線――ゲーム依存やギャンブル依存から抜け出すために」と題し、パネリストによる講演と意見交換を行った。討論の模様は、MBSラジオ公式YouTubeチャンネルで動画配信している。

 討論会は、司会を務める三ツ廣政輝・MBSアナウンサーにより開会。はじめに、ゲーム依存治療の第一人者でもある樋口進氏(国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問)が、「ネット・ゲーム依存の対応と予防」と題し、臨床経験を踏まえてネット・ゲーム依存の今を伝えた。森口久子理事は、「ネット環境における子ども達の育ちと学び」をテーマに、小児科医・学校医の立場から講演。講演終了後には、子どもを育てる親の立場からタレントの浅尾美和氏も加わり、意見交換を行った。

子育てとスマホ

 子どもの宿題で調べ物をする際にスマートフォン(スマホ)を利用するが、子ども達を落ち着かせるための利用はしていないと話す浅尾氏。時間待ちなどに取り入れる遊びとしてしりとりが話題に上がると、樋口氏は大きくうなずいた。スマホを使わない時間を無理やり作るのではなく、ほかのことに置き換えて、子ども達の興味を引くことが非常に大事と評した。
 浅尾氏は、フードコートでスマホを触る赤ちゃんを見かけてはらはらした経験があると回顧。森口理事は、子どもは集中して対象を見るため、スマホ画面ではなく親御さんの笑顔やいろいろな表情を見せてほしいと語った。

子どもに持たせるその時の注意点

 樋口氏は、国際機関などによる年齢の基準はないとしつつ、依存という観点では、スマホの使い始めは遅いに越したことはないとした。必要性を親子でしっかりと話し合い、キッズスマホやペアレンタルコントロールなどで工夫するといったポイントを示した。
 森口理事は、メディアリテラシー教育に提言。スマホやタブレットなどの端末は一定のツールであり、自分自身がすべて入っている訳ではないことを教えてほしいと訴えた。

GIGAスクール構想

 森口理事は、教育のICT(情報通信技術)化は学習の動機付けにはなると前置き。タブレット学習と紙の教科書をうまく併用し、子ども自身が体を動かしたりゼロから考えたりすることで育まれる能力も重視するよう説いた。
 樋口氏は、国際的な競争力を高めるためには必要だとする一方、一人一台端末が配布されてから、依存にまつわる問題も目立ってきたと言及。学校や家庭での混乱も憂慮し、国にはバランスの良い対策を取ってほしいと加えた。

さいごに

 浅尾氏は、「今後どのくらい子ども達と一緒にいられるのかを考えると、スマホ画面を見ているのがもったいない」と語り、親として見本となり、子どもの変化に気付ける大人でありたいと力を込めた。
 最後に大平真司理事が総括。ネット・ゲーム依存は、本人の意志の問題ではなく病気であり、少しでも改善されるように適切な治療が肝要だと結んだ。

自らが気付き、ゲーム以外の活動を改善・充実させるサポートが大切
樋口進氏

 まず、年齢別にインターネットの利用率を示し、利用の低年齢化を指摘。依存とは時間とともに進行し、過剰使用によって問題になってきた状態だとした。正常と依存の境界線は、この問題が起きているか否かだと言明。過剰に使用しているが、明確な問題が起きていない「グレーゾーン」で自ら気付き、使用方法を振り返ってほしいと訴えた。
 あわせて、▽身体・健康▽精神▽学業▽経済▽家族・対人関係――における依存に合併する問題を列挙。オンラインゲームの課金はギャンブル性が高く、オンラインカジノへの移行を助長しているとの見解を示した。
 依存のリスク要因として、人間関係の乏しさなどによる満たされない気持ちを問題視。依存を防ぐには、親子で話し合い、使用時間や時間帯、場所や金額などの使用に関するルールを決めて、一緒に守ることが不可欠とした。
 最近の治療では、使用時間を減らすことを治療目標に掲げ、ゲーム以外の活動の改善・充実を重視しているとし、自院の治療プログラムを紹介。疑わしい場合の早めの受診を呼びかけて結んだ。

スクリーンタイムを減らして親子でリアルな生活体験を
森口久子理事

 はじめに、幼児期における外遊びなどのリアルな生活体験、規則正しい食事や睡眠、近視進行の防止や親子の会話の重要性を語り、スクリーンタイム(端末画面などを見る時間)を極力少なくするよう訴えた。乳幼児期における愛着形成が学びの土台と言及。愛着形成が不十分な状態は依存の引き金になるとした。
 子どもの目を守るポイントとして、屋外で過ごす時間を増やすことや、近くを見る時は明るい部屋で姿勢を正し、こまめに休憩することを呼びかけた。長時間に及ぶヘッドホンなどの大音量使用や、不自然な姿勢を続けることによる健康リスクへの警戒も加えた。また、睡眠を1日24時間の中心として考えるよう助言した。
 学校のICT化については、コロナ禍により前倒しになったこともあり、導入までの時間が短く、使い方に対する教育が不十分だったため、依存傾向を増長する一因となったと考察。親子で紙の教科書を読む時間を持つよう推奨した。
 終わりに、育児に抱く不安に触れ、子育てしやすい環境の整備が、ネット依存に陥る子どもの減少につながるとの見解を示した。