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医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

寄り添う心

府医ニュース

2025年1月29日 第3097号

 1995年1月17日は火曜日だった。
 大阪府下で、震源地からは距離がある自宅でも、激しい揺れで目が覚めた。
 卒後1年目の研修医にとって、前日手術をした病棟患者さん達の診察を、午前の外来前に終わらせることで頭がいっぱいだった。とにかく出勤しようとしたが、すでにJRも私鉄も運転見合わせ、高速道路は通行止めだった。父の車で勤務先の大学病院まで送ってもらったが、大渋滞。いつもは30分程度の行程に、3時間以上要した。時を経ても、瞬時にまざまざとあの日の状況がよみがえる。ああだった、こうだったと、記憶の断片が連なって、より鮮明になる。
 阪神・淡路大震災から30年。メディアで特集されることも多く、映像や証言に触れ、いかに壮絶な災害だったのかを改めて知る。物理的な爪痕はほぼ消えつつあるが、人々が心に負った傷、死別・喪失の痛みや苦しみが完全に消えることはない。安克昌氏の『心の傷を癒すということ』を再読した。ご自身も被災されながら、他の被災者の心のケアに奔走した精神科医であり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)研究の先駆者でもある。自ら積極的に避難所へ出向き、被災者達に寄り添った。今年の追悼行事で灯篭がかたどった文字は「よりそう」だった。能登半島地震など、他の被災地の人達にも寄り添うという思いが込められたという。
 言葉で伝えること。言葉がなくても伝わること、耳を傾けること、寄り添うこと。この句の季語は、震災忌。1923年9月1日関東大震災を表す。

ぢぢばばが
わがこと語る
震災忌
山口青邨
(颯)