TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

年末恒例

本紙編集委員会委員が振り返る2024重大トピックス

府医ニュース

2024年12月25日 第3094号

美容医療

 近年、医療界はこれまでの常識を覆すような変革を強いられている。為政者側からの決定事項に従わざるを得ない制度下で国民皆保険制度の存続が危ぶまれるとの声が聞かれるようになった。患者が等しく医療を受けられるように制定されたこの制度は医師達の犠牲的精神の上に成り立っているとも言えるのだが、高額医療や高額薬剤の保険適用など不安材料が山積している。健康保険制度が浸透した時代に医師になった我々世代は、制度に対する違和感を覚えることはなかった。しかしながら近年保険診療を行っている医師達のストレスが増強しつつあることは肌で感じている。
 そんな中、気になることを耳にするようになった。新たにスタートする医師達の進路選択に関してである。かなり以前から外科や小児科、循環器科などの志望者が減り、皮膚科などが増加する傾向が顕れていたが、医師免許取得後、相応の修練を経ずしてさっさと美容外科に移行するという現象が目立っているという。確かに巷では保険適用外の美容外科が目立つようになりコマーシャルも溢れるようになった。経験や技術取得が十分でない医師が安易に高収入(儲けという語は好きでない)を求めることは医師の使命をないがしろにするに等しい。自費医療のミスを保険医療でカバーするなど、とても受け入れられるものではない。
 そのような状況下やはり厚生労働省は動きを見せた。美容医療への医師流出を抑えるために5年は保険診療に従事しないと独立を認めないとのルールを国会に提出するという。このような場当たり的刹那主義には呆れ果てる。と思っていたら都会の医師の診療報酬の一部を地方の医師に支援金として回す方針を固めたとの記事が出た。保険料を使うということで政府の腹は痛まない。声も出なくなった。本題に戻って外科医として誇りを持って過ごしてきた私には〝美容外科医は外科医の範疇にあらず〟との思いがあるが、真面目に保険診療に向き合っている私達の体力にも限界がある。(禾)

新型コロナワクチン定期接種開始
接種率伸び悩みの問題

 65歳以上、60~64歳の一定の障がいを有する方が対象となる新型コロナウイルスワクチンの定期接種が今年10月から開始された。国の定めた期間は2024年10月1日から25年3月31日であるが、自治体により実施期間は異なり1月31日までの市が多い。自己負担も数千円あり各市で価格差が大きい。選択可能なワクチンはファイザー、モデルナ、第一三共はmRNAワクチン、武田薬品は組み換えタンパクワクチン、Meiji Seikaファルマはself-amplifying mRNA(レプリコン)ワクチンである。厚生労働省の会見では11月8日時点で各メーカー合計約457万回分のワクチンが医療機関に納入されている。今シーズンの供給見込み量は約3224万回分であり、11月時点ではまだ14%の出荷率となり実際の接種率はそれより低い。診療現場でも、「新型コロナの流行や脅威が収まったと思っていた」「息子や娘からワクチンは危ないから打たなくて良いと勧められた」など患者から伺い、医療の現場と世間の見解の温度差に戸惑うことも多い。20年Lancet掲載の149カ国28万人対象のワクチン信頼度調査で、日本は最下位であった。様々な事柄が接種率低下に影響していると考えられるが、今回はSNSを通じたレプリコンワクチンに対するデマ、風評被害の影響も大きいと考えられる。レプリカーゼをコードした自己増殖型mRNAワクチンであり、抗体価は他のワクチンより長期に保たれる。mRNAは無限に増殖するわけではなく接種後2週間から1カ月で低下する。スパイク蛋白質だけが発現するため感染力のあるウイルスは含まれておらず、非接種者が周囲の人に感染させるリスク(シェディング)は無い。すべてのワクチンの安全性や有効性の評価は必要であるが、今後も科学的根拠に基づいた意見交換が望ましい。5類移行後も年間3万2千人以上が死亡しているコロナウイルスの危険性と、ワクチンの重要性を改めて国や医師会、かかりつけ医が患者に伝え、希望のワクチンを接種することが重要である。社会全体での接種率低下により感染拡大の懸念は大きい。今回の定期接種が有効であったかどうか、今後の接種率増加が重要となる。接種期間の延長や費用の軽減、医療従事者や未接種小児への補助対応などが望まれる。(昌)

働くこと 生きること

 2024年4月に施行された医師の働き方改革により、医師の時間外労働上限規制が適用され、追加的な健康保護措置を取ることが法律で義務付けられた。今後、医療の高度化、少子化に伴う医療の担い手の減少により、医師個人のさらなる負担が予想される。医師が健康に働き続けることのできる環境を整備することは、医師本人だけでなく、患者に対しても、医療の質・安全を確保し、医療提供体制を維持していく上で重要である。
 また、地域や診療科による医師の偏在が問題となっている。医師の確保・育成、実効的な医師配置が望まれる。対策として、経済的なインセンティブ措置や診療報酬上のディスインセンティブ措置を求める意見がある。
 今から150年前、1874(明治7)年、医制が公布され、医業開業許可制を定めた。10年後、医業開業試験が実施された。医師に西洋近代医学に基づく専門性を求めるとともに、開業による営利追求を認めるという二重の性格を持つものだった。その後も、医師資格に関する制度改革を行いながら、医学教育の内容充実と必要十分な数の医師の養成が図られてきた。現在、民間によって運営される医療機関が多いのは、自由開業制度が基礎にあり、公的病院の拡張のみでは増大していく医療ニーズに応えることが困難であったことも影響しただろう。
 医師という職業や働き方を自由に選択する。医師を目指した純粋な熱意や職を通して得たやりがいや成長は数字では表せないかもしれないが、持続可能な医療提供体制には必要だ。(颯)

大阪府医師会イメージキャラクター「らっふぃ~」の誕生

 本年6月に中尾正俊執行部が誕生し、4つの主な政策を発表。その中の一つが「広報の強化」です。その1年前からキャラクターの候補として数社が提案し、理事や医師会職員内で検討していたが、どれも決定打に欠けていました。そのため、しばらくはペンディングになっていました。しかし、中尾先生は広報を強力に進めていく必要性から、キャラクターの早期決定を決断され、提案する会社にさらなるブラッシュアップをお願いし、理事および職員の投票により決定しました。大阪府医師会にとって、今年一番の重大トピックスです。
 それは、動物のラッコをイメージしたもので、ラッコの鼻は大阪らしくイチョウの形で、なぜか関西弁を喋ります。なぜ、動物のラッコが「医師会」のイメージになるかというと、ラッコと言えば「石、貝」を思い浮かべる。何とも、ベタな駄洒落ですが……笑。そして、ラッコが貝を石でコツコツたたいている姿は何ともかわいらしいですが、彼の口癖が、「コツコツでええよー」。医療関係者にとって、「コツコツ」という姿勢は大変良いことです。
 名前は、府医の職員に募集しました。私は、ラッコの髭を赤くして、「赤ひげ先生」を考えましたが、やはり年寄りは考える名前も古い。役者の三船敏郎を思い出す。今の若い世代は、キラキラネームやDQNネーム。ラッコと府医から「らっふぃ~」と決定しました。可愛がっていただきたいと思います。(平)

死亡診断書記入マニュアルが改定
穏やかな看取りのための地域連携の推進を

 3月28日、厚生労働省から令和6年度版「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」が公表された。変更点のポイントをまとめたリーフレットが作成され、厚労省ウェブサイトの「死亡診断書(死体検案書)について」のページでは、併せてFAQも掲載されている。
 今回の改定では、【生前に診察を担当していなかった医師であっても】、3条件を満たせば【死亡診断書を交付することが可能】である旨が明記された。
 その3条件とは、①生前の心身の状況に関する情報を正確に把握できていること(生前の診療情報の共有または提供を受ける)②患者の死亡後に死後診察を行うこと③生前に診療を受けていた傷病に関連して死亡したと判断できること――である。
 挙げられている具体例は、▼別にかかりつけ医がいる患者がCPAで医療機関に搬送され、初診で死亡を確認した場合で、死亡の原因と考えられる傷病に関する状況を含め、かかりつけ医からの生前の心身の状況に関して情報の提供を受けた場合▼訪問診療で複数の医師で患者の診療をする体制を構築しており、診療記録の共有が行われるなど、患者の状態を医師間で十分に共有できている場合(医師が所属する医療機関が異なる場合も含む)▼災害時、被災地に派遣された医師が、派遣先の医療機関にて患者の死後診察を行った際に、当該医療機関に保管されてある患者の診療情報を確認するなどした場合――などである。
 その他の主な改正点には、▽死亡診断または死体検案に際して、死体に異状が認められない場合は、所轄警察署に届け出る必要がない旨を明記▽死亡診断書または死体検案書の署名欄について、記名押印は原則不可である旨を明記(医師による署名が必須)――などがある。
 死体検案(書の発行)は様々な意味でハードルが高く、家族や市民の側にも一定のイメージが浸透している。実際、大阪市ウェブサイトの死亡届のページには「死亡診断書は病院、死体検案書は警察から発行されます」との記載がある。
 想定されていたケースでの、スムーズな死亡診断(書の発行)は、穏やかな死のための最後の重要なピースである。多死時代を迎え、今回の改定により、看取りに関する地域での連携がさらに進むことが期待される。(学)

様変わりする選挙戦とカオス

 選挙戦で今も昔も変わらないのが、戸別訪問やミニ集会、街頭演説、宣伝カーといった「どぶ板選挙」である。しかし、今年あった数々の選挙戦で多大な影響を及ぼしたのがSNSである。ただそこには様々な社会的、倫理的功罪を問う問題点が露呈した。
 東京都知事選挙では、知名度がほとんどなかった石丸伸二氏や安野貴博氏が、AIを活用して民意を集約しそれを公約にすると掲げてSNSを駆使した選挙戦を繰り広げ、既成政党へ不信をもつ無党派層や若者の支持を多数得て善戦した。これを機に、今後の選挙運動の特に比例代表や知事選といった広い選挙区では、SNSへの比重がますます大きなものになるであろう。
 一方で、選挙そのものを冒涜する不愉快な事象も目立った。「NHKから国民を守る党」は選挙掲示板にポスターを自由に貼る権利を有料で譲渡し、選挙に関係のない不適切なポスターが掲示され物議を醸した。NHK党にも一応基本政策、理念はあるのだろうが、その選挙手法を見る限り、選挙を生業とする単なる選挙ビジネス党にしか思えない。さらに衆議院東京15区補欠選挙では、ユーチューブでの広告収入狙いの不埒な選挙妨害事件で逮捕に至った「つばさの党」はその最たるものである。
 良くも悪くも選挙戦はSNSでカオスに陥りやすい。SNSによる誹謗中傷やフェイクニュース合戦で真っ当な大統領が選ばれるのかと疑念を抱きながら、異国のことと眺めていたアメリカ大統領選であったが、日本でも同様なことが起こった。県職員に対するパワハラ疑惑で失職した兵庫県前知事の斎藤元彦氏が再選した。当初全くの劣勢であったが、SNSでの応援メッセージが共感を呼び爆発的に拡散し支持者が急増した。加えて、有力対立候補へのフェイクニュースや一部の県議への誹謗中傷が飛び交い、少なからずそれらの影響があったことも否めない。
 この兵庫県知事選の結果は、マスメディアに危機感をもたらすことにもなった。マスメディアは公正な立場で正確な報道を主張し、SNSに対して批判的な論調が目立つが、現実はマスメディアこそが偏向報道ばかりとの印象を持たれ、その信頼度は低下している。今や民意、世論の方向性はSNSに凌駕されてしまった感がある。しかし、やはりSNSには誹謗中傷、フェイクニュースといった汚染された民意が反映されやすく、それが分断をも生み、「悪貨は良貨を駆逐する」社会に誘導される危険性が常にある。SNS利用者への法的規制ではなく、倫理観と道徳心をもったSNS教育を徹底しない限り、未来に向けて永遠にカオスの世の中を彷徨うことになるだろう。(誠)

アルツハイマー病疾患修飾薬の登場
認知症治療の新たな道が拓かれる

 認知症の半数以上を占めるアルツハイマー病の病態は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれる異状蛋白質の凝縮による脳神経細胞の壊死とされている。Aβに焦点を当てての治療薬の開発にしのぎが削られた。まず、Aβを産生する蛋白分解酵素、β―セクレターゼの阻害薬を試みた。芳しい効果が得られず早々に撤退。続いて、Aβワクチンを接種し、Aβの除去を試みた。施行患者の5~10%が脳炎を発症。抗原調整に用いたアジュバントや可溶剤に起因すると考えられ、開発が断念された。そこで、Aβに対するモノクロナール抗体の投与が始められた。数年に及ぶ治験の結果、18カ月間の投与で25~30%程の進行抑制効果が得られた。数年以上進行を遅らせると推測されている。
 慎重な検討を経て、昨年12月、抗Aβモノクロナール抗体治療薬(レカネマブ)が保険収載され、本年当初から待望の疾患修飾薬として投与が始まった。適用は、MMSE22点以上の軽度認知症で、PET検査にてAβ沈着が確認された患者となる。初回導入医療機関は、専門医2人が配置され、MRI検査が可能な施設に限られる。重大な副反応である微小血管障害(ARIA)は、そもそも微小血管壁に沈着したAβの除去による。注意深い観察での投与が必須である。脳血管障害の既往など、高リスクの患者は適用外となる。Aβの沈着を発症前に早期にかつ侵襲の少ない検査で検知することが、適用の枠を広げるとともに、副反応抑制につながると望まれている。
 種々の解決すべき課題はあるが、レカネマブ投与によって発症を5年遅らせると、認知症患者が半減すると考察されている。レカネマブを出発点とし、一層効果の良い抗体薬の開発の期待が大きい。加えて、MCIレベルの患者の受診が増えている。従来は、認知症という現実を受け入れることに抵抗感があり、息を潜めていたのだろう。有望な治療薬が現れたことで、将来に一筋の光を見て、医療の入口に立たれるに至ったのである。早期からの支援サービスの提供という社会的意義も高い。現在、府下で500人、全国で6千人の方がレカネマブ投与を受けている。千里の道への第1歩。新しい治療薬が登場することのインパクトを体験した1年である。(翔)

上を向いて歩こう

 今年の日本のロケットは五分五分だった。H3の快挙とイプシロンの足踏み。日本の自動車産業が世界一から下降曲線に入ってきただけに、次の期待感が膨らむ。自分が生きているうちに、一度は国産ロケットに乗って青い地球を見たいものである。アメリカではトランプ次期大統領の側近にイーロン・マスク氏が抜擢されたが、彼は人型ロボットや民間宇宙船などに積極的に投資しており、我々が思う夢を実践している。
 小学校の頃、手軽に宇宙に行ける方法として、反重力を信じていた時があった。何かのマンガで得た知識が背景にあるのだろう。膨大な燃料を使用して宇宙にいく技術が日本になかった頃だ。洞窟に行けば、天井をずっと見ていた。もし反重力の石があれば、それは地上から宇宙へ飛び出してしまう。だから、そういう物質は絶対見つからない。しかし近くの洞窟に行けば、何億年と閉じ込められていた反重力の性質を持つ石が、何百年も前に掘り出した時から天井にくっついているはずだ。洞窟は山に穴を開けて水平に掘り進んでいく。地殻変動でマントルから隆起してきた山は、きっと何億年の間反重力の石を抱えているに違いない。江戸時代の職人には反重力の概念がないから、それは何百年もそのままでいる、というのが鉄腕アトムの登場を信じた小学生の夢だった。今まで心の中では反重力を密かに信じていたのであるが、昨年反重力が物理学的に否定されたという記事を見た。無粋な話だ。いやいや人間が考える理論には、間違いがあるかもしれない。日本の新技術開発を夢見て、上を向いて歩いている。(晴)

災害の多発と将来への備え

 今年を象徴する出来事が1月1日、能登半島で起こった。震度7の激しい揺れが突然元旦の町を襲い、多くの建物が倒壊、津波も発生し、土地の液状化も伴なって、各地で甚大な被害が生じた。今年は能登半島で地震が多発しただけでなく、南海トラフの西側に当たる日向灘でも8月8日に大きな地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報が発令された。このことは多くの人々に南海トラフ巨大地震の到来を心配させる事態になった。日本は、2011年3月11日に発生した東日本大震災以来、地震の活動期に入っていると報告されており、今後の大地震の危険性が増していると報じられている。我が国は世界第2位の地震大国である。我々はどこで巨大地震が起こっても不思議ではない土地で日々生活していることを、改めて自覚する必要がある。また、今年は集中豪雨による大きな被害も各地で発生した。とりわけ大地震の被害からの回復が遅れている能登地区を襲った集中豪雨は大変な被害をもたらした。地域によっては地震の時の被害を上回る悲惨な状況になった。そのほかでも、今年は猛暑であったことも合わせ、天災が非常に多い年であった。災害が起こる度にその備えの必要性が叫ばれているが、実際には国としても個人的にも十分な対策が取られているとは言い難い。考えてみると、このことは我々が日々診療の中で感じている生活習慣病への対策と似ている。高血圧症、脂質異常症、糖尿病等の生活習慣病は、将来に重篤な合併症を来す危険性が指摘されているが、自覚症状がないためにその対策がおろそかになりがちである。我々は日々その危険性について啓発しているが、十分に理解されているとは言えないのが現状である。
 災害対策も生活習慣病対策も自分事として捉えなければ、積極的に行動を起こせないのが実際のところであろう。来るべき新しい年がどのような年になるかは予想できないが、今年の経験を踏まえて、災害に対しても、日々の診療の中でも、しっかりと自分事として対処していく必要があることを肝に銘じたい。(浩)

社会保険診療報酬支払基金の抜本改組

 6月21日の閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2024」において、医療DXに関連するシステム開発、運用主体として、支払基金について、国が責任を持ってガバナンスを発揮できる仕組みを確保するとともに、情報通信技術の進歩に応じて、迅速かつ柔軟な意思決定が可能となる組織へと抜本的に改組するとした。
 11月7日に第185回社会保障審議会医療保険部会が開催され、支払基金の抜本改組について議事が行われた。法人の目的として現行の業務に加えて、医療DXの推進により、医療の質の向上、医療機関・保険者等の業務効率化等の医療の効率的な提供に資する業務を実施するとともに、医療DXの基盤の整備・運営を担う旨を法律に規定する。法人の業務として、現在実施している医療DX関連業務および電子カルテ情報共有サービス等の新たな医療DX関連業務について、支払基金法上に規定する。
 政府の医療DX工程表を踏まえ、厚生労働大臣が「医療DX総合確保方針(仮称)」を定め、支払基金は「医療DX中期計画(仮称)」を定める。組織体制は現行の理事会に代えて、新たな意思決定機関として、学識経験者・被保険者、保険者(地域保健・地域行政代表を含む)、診療担当者の体制で構成する「運営会議」(仮)を設置する。審査支払業務については、新たに「審査支払運営委員会」(仮)を設け、これまでの理事会と同様の4者構成16人体制で運営し、運営委員は法人の役員とする。医療DXの推進体制については、理事長・理事の中に、情報通信技術に関する高度かつ専門的な知識を有する理事(CIO)を加えることとする。医療DX関連業務については、運営会議における全体方針の決定を受けて、理事長・CIO等が中心となって、執行していく体制とする。(中)

キダ・タロー、桂ざこば、桂雀々…、中尾先生

 5月14日、放送番組テーマソングやCM曲を送り出した作曲家、キダ・タローさんが亡くなった。享年93歳。晩年、関西ローカル番組ではコメンテーターとしてよく知られており、丁寧な語り口で解説する姿に品を感じさせる一方、関西芸人の「いじり」に対しては、(お約束の上で)激昂してお茶の間の笑いを取ることがあった。4月に放送された「探偵ナイトスクープ」が最後のテレビ出演となった。
 探偵ナイトスクープの二代目最高顧問として就任(初代は横山ノック)。他、1990年代の関西ローカル深夜トーク番組で、上岡龍太郎、浜村淳らとの掛け合いは、今のトーク番組での文化人が「しゃべり」で世相や文化を語るフォーマットとなるものであった。あの頃のトーク番組には、スポンサーの意向や政治体な扇動や洗脳を感じさせるものではなく、視聴者も一緒に、笑いも含め、文化と政治の距離感を考えることができた。
 作曲家として、1000曲、2000曲(自称)を世に残したと言われ、関西人として馴染みのある曲は「かに道楽」のCMソングであろう。私は、キダ先生と言えば「有馬兵衛の~」のメロディが真っ先に浮かぶ。上岡龍太郎司会の「ノンストップゲーム」のアップテンポなアゲアゲソングも捨てがたい。
 その、キダ二代目最高顧問に続き、上岡龍太郎と20年間、ラジオ大阪「歌って笑ってドンドコドン」でパーソナリティを務めた桂雀々さんも、11月20日に亡くなった。上岡龍太郎との掛け合いは名物だった。桂雀々さんは64歳。桂枝雀の名前を継ぐのは雀々だと期待していた私はショックを受けた。そして、桂雀々さんの義兄弟だった桂ざこばさんも6月12日に亡くなった。大阪の凋落が激しい中、元気だった頃の関西のメディアで活躍していた方々が、次々といなくなった。皆さん、天国の上岡龍太郎と仲良くやっておられることだろう。
 10月16日、大阪府医師会の中尾正俊会長もこの世を去られた。芸能では、宝塚歌劇がお好きだったと聞いている。私が研修医1年目、初めて地方会の学会発表で質問をしてくださったのは中尾先生である。さらに、その2年後、臨床心臓病学教育研究会(JECCS)の理事をされていた中尾先生は、そこでも私に質問をしてくださった。また、日本医師会代議員会の昼休み、六義園にいくと喫煙所でばったりご一緒したこともあった。いや、至る所で喫煙所では同席させていただいた。今年8月府医会館のエレベーターでご一緒した際、「僕、もうタバコやめましたよ」とお声をかけたのが最後だった。合掌。(真)

プロメテウスの火

 ギリシア神話によれば、ゼウスに火を奪われ凍えた人類を哀れんだプロメテウスは、天界から火を盗み人類に授けた。人類はその火を用いて技術を育み文明を築き上げたが、それは同時に戦争の原因ともなったという。
 2022年12月、アメリカのローレンス・リバモア研究所は実験段階ではあるものの、核融合により2MJの入力エネルギーに対して3MJの出力エネルギーを抽出することに成功した。この「制御された核融合」での点火状態の達成は、有史以来長く続いた化石燃料からの脱却になり得る大きな一歩となった。AIの進化がもたらす今後の世界はさらなる大量の電力需要が必須となっており、AI・IT企業にとってこの核融合エネルギースタートアップ事業は数十億ドル規模の投資対象として加熱している。その結果、新技術達成への培地は豊かなものとなり、様々な課題は残っているものの、外部からのエネルギー投入なしに持続的に核融合反応を起こす「自己点火条件」まで、あと一歩の段階まできたという。
 22年を核融合エネルギーの誕生の年とすると、豊富な開発費によって実験レベルから実用へと飛躍的に進化を見せつつある24年は幼少期に入ったと断言しても過言ではない。日欧米を含む多国間で07年に設立された核融合エネルギーの実験プロジェクトであるITER機構は、35年をめどに核融合の商業的運転開始の計画を発表している。実現すれば地政学的にも環境問題的にも、大きな変化が起こることは想像に難くない。産油国からの依存脱却、発展途上国のエネルギー問題解決、さらには世界的に危惧される食糧問題などにも解決法が見出される可能性もある。
 VUCAという先の読めない不確実性の高い時代とよく言われる中で、矢継ぎ早に出てくる一連の核融合に関する発表は明るい兆しを感じるニュースであった。世界の重心が大きく変わることが予想される今後、日本は自らの立ち位置を予測し対応してうまく備えていかなければならない。
 25年はロスアラモス研究所での水爆の研究から80年が経つ。今度こそ人類は自らを焼き尽くすことなく、この新たなプロメテウスの火を使いこなせるよう期待を持って見守りたい。(隆)

医療的ケア児の保護者、児を遺棄したとして逮捕される

 本年11月、寝たきりで痰の吸引が必要な8歳の娘を自宅に置いて長時間外出し、窒息に至らしめたとしてその母親が逮捕された。
 逮捕されるに至った詳しい経緯や、なぜ母子だけでの生活であったのか、今までどのような支援を受けていたのか、または受けていなかったのかなどは分からない。従って、この特定の事例について言及することは控え、一般論として述べたい。
 医学・医療の進歩と医療者の努力により、以前なら助からなかった疾患を持った新生児が助かるようになった。そのうち一部の子ども達は、人工呼吸器などが必要な医療的ケア児となる。現在、全国で約2万人いると言われている。
 日本の周産期死亡率は、2023年で出産1000に対して2.6と世界的に見て低い。それは医学・医療の進歩と現場の医療者のたゆまぬ努力の結果であるが、今日、そのように周産期死亡率が低いために、一般の人達の間には子どもは健常に産まれるのが当たり前と思う傾向があるように感じる。しかし、それは決して当たり前ではなく、先天的な疾患を持った子どもの親となること、医療的ケア児の親となることは、誰にでも起こり得ることである。その時にその児の世話が個人の過大な負担に帰せられるなら、安心して子どもを産める社会とは言えない。
 まず「誰にでも起こり得ること」という認識を社会全体で持つことが対策の一歩であると思う。(瞳)