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龍が潜む淵

府医ニュース

2024年10月2日 第3086号

 10月に入った。今年も残り3カ月となった。
 いまさらだが、今年の干支は辰。
 十二支の動物達のうち、唯一架空の生き物だが、古代中国人にはあまねく知られた神獣で、皇帝は龍の生まれ変わりで権力の象徴とされることもあれば、霖旱(りんかん)を支配する神とも考えられてきた。霖は長雨、旱は日照りのことで、雨と日照りを自在に操れる存在は、稲作ともかかわりが強い。中国後漢時代の『説文解字』の中に、龍は「春分に天に昇り、秋分に淵に潜む」という一節がある。春分過ぎ、龍は天に昇って水のない田の土に雨を降らせ水田を潤し、稲を育て、秋になり稲の収穫が終わると、水田から水を落として龍は淵に隠れる。ここから「龍淵に潜む」が秋の季語となったそうだ。

龍淵に
  潜む水面の
    まつたひら
大野崇文

 龍が潜む水面は澄んで静謐だと想像していたが、この句の水面の「まつたひら」という表現には、むしろ緊張、緊迫、そして嵐の前の静けさのような不穏を感じる。
 辰年は、振(ふるう)にも通じ、振動や動乱などが起こるともいわれ、事寄せではあるが、元日の能登半島地震や猛暑や台風の大雨などの異常気象などを想起する。この夏にはコメの供給不足にも直面した。昨年の猛暑による不作や買いだめ需要が重なった結果でもあり、長期的な生産調整も一因だ。自然災害だけでなく、社会的な要因も絡む。
 平穏に見える景色に隠れた不穏に、安閑としていられないものを感じる。想定外の「まさか」が突発しないことを祈念する。(颯)