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時の話題

保険外併用療養費制度の拡大について

府医ニュース

2024年8月7日 第3080号

「基本的合意」の順守が原則

 規制改革会議は、国民が自由に先進医療を選択し、患者負担の利便性の観点から「混合診療」の全面的な解禁を求めていた。2004(平成16)年4月、故植松治雄氏が第16代日本医師会長に就任し、混合診療の全面的な解禁は国民皆保険制度の崩壊を招くと強く主張し、反対した。
 同年12月15日、尾辻秀久厚生労働大臣、村上誠一郎規制改革担当大臣により、「いわゆる『混合診療』問題に係る基本的合意」(以下、基本的合意)がなされた。それは、①国内未承認薬の使用②先進技術への対応③制限回数を超える医療行為等④保険診療と保険外診療との併用のあり方⑤改革の手順――である。そして、「必要かつ適切な医療は基本的に保険診療により確保する」という国民皆保険制度の理念を基本に据えている。
 「選定療養」は保険適用を前提としないが、06(平成18)年に保険適用を前提とする「評価療養」が導入された。これには、▽先進医療・医薬品の治験に係る診療▽医療機器の治験に係る診療▽薬価基準収載前の承認医薬品の投与▽保険適用前の承認医療機器の使用▽薬価基準に収載されている医薬品の適用外使用――がある。
 24(令和6)年5月23日、経済財政諮問会議(議長:岸田文雄首相)は、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」の中で社会保障の強靭化に向けた提言を示した。その中で、民間保険の活用を含めた保険外併用療養費制度の拡大を提言している。分子標的薬等が開発され、その有効性は認められるところではあるが、薬価も超高額である。評価療養として保険外併用療養費が当然認められる。最近では、出産の保険適用が検討されている。全国でも地域により出産費用に格差があるため、厚生労働省は「出産費用の見える化」を図り、5月30日にウェブサイト「出産なび」を開設し、一般に供覧している。それを参考に診療報酬を設定すると考えるが、地域により20万円の格差があり、一部選定療養も認めざるを得ない状況である。これも少子化対策の一つであるが、その有効性についてはどれほどであろうか?
 長期収載品の選定療養は、医療関係者のみならず患者団体からも懸念が広がっている。安全性、有効性が認められた長期収載品が、一部選定療養にされるというのは、「基本的合意」に反すると思料する。今まで通りすべて保険で賄われるべきである。
 最近の規制改革会議は「混合診療の全面的な解禁」とは主張しないが、「保険外併用療養費制度の拡大」を求めている。保険外併用療養費の拡大が保険収載に結びつかなければ、混合診療全面解禁と実態は同じだ。
 故植松氏は「アリの一穴が国民皆保険制度を崩壊させる」と言われた。愚直なまでに「基本的合意」を順守することが大切である。