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こどもの権利について考える

府医ニュース

2024年7月31日 第3079号

 2022年6月の「こども家庭庁設置法」「こども基本法」成立・交付により、こどもを権利の主体として位置付け、その権利を保障する総合的な法律が誕生した(23年4月施行)。それに即して、22年9月に行政文書および法人文書内の「子ども」「子供」表記を「こども」表記とすることがこども家庭庁設立準備室より推奨する文書が発出された。こどもにも読めるように、また年齢で区切らず若者に必要な支援を届けたいという姿勢を示すとされている。そして、22年は4月に成人年齢が18歳に引き下げられた年でもある。これを受け、医療現場でも対応が必要となった。当院でも「患者の尊厳と権利」に加えて「こどもの権利」を掲げ、「18歳以上の患者に対する医療行為の同意は原則本人から」としている(ただし18~19歳は学生である場合が多く、支払いに関する契約関係も成立してしまうため保証人として保護者の同意も得ている)。この法律が制定された背景や理由についてまだ十分浸透していない。そこで、こどもの権利に関わる国内外の動きについて、これまでの経緯と現状を整理してみたい。
 原点はフランス人権宣言にも影響を及ぼした社会思想家のルソー(Jean-Jacques Rousseau, 1712~78年)の教育思想である。1762年の著作『エミール』は「こども発見の書」と言われ、小さな大人とせずこどもとして自主性を尊重し、成長や能力に合わせた教育を行うべきと述べた(ルソー自身は手癖も女癖も悪く5人いる実子も孤児院に入れたが、自らの半生を反省して記したとされる)。国際的には、第一次世界大戦後のジュネーブ宣言(1924年)、第二次世界大戦後の世界人権宣言(48年)・児童権利宣言(59年)を経て、89年にようやく法的拘束力のある「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」が成立した。これはこども(18歳未満)が生きる権利や育つ権利、虐待・搾取から守られる権利、教育を受ける権利、表現や思想の自由、遊ぶ権利、健康・医療への権利などを定めた全文54条からなる条約である。
 日本は94年4月22日に批准したが(世界で158番目)、その際に国内法は整備されず、こどもを権利の主体として位置付け、その権利を保障する総合的な法律は長らく存在しなかった(51年5月5日に成立した児童憲章は単に理念である)。
 そのため、個別の「日本国憲法(46年成立)」「児童福祉法(47年成立)」「少年法(48年成立)」「母子保健法(65年成立)」「児童虐待防止法(2000年成立)」「教育基本法(06年成立)」「子どもの貧困対策推進法(13年成立)」「成育基本法(18年成立)」で対応された。批准から28年、国際条約成立年から33年、ようやく日本国憲法および子どもの権利条約で定めるすべての権利を包括する法律が成立した。すべてのこどもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、こども政策を総合的に推進することを目的として、こども施策の基本理念、こども大綱の策定やこども等の意見の反映などについても定めている。武田信玄、吉田松陰、松下幸之助らが残した言葉のように「国はこどもを以て盛りなり」ということであろう。

大阪ろうさい病院小児科部長
岡本 奈美
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