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時事

長期収載品の選定療養化

府医ニュース

2024年6月19日 第3075号

2024年診療報酬改定から

 健康保険制度において、保険診療の診療範囲や薬、処置材料の使用範囲は限定されている。そして、保険診療と保険外診療をあわせて行う混合診療が無制限に認められると、患者に対して保険外の負担を求めることが一般化し、科学的根拠がない特殊な医療の実施を助長する恐れがあるため、混合診療は禁止されている。

保険外併用療養制度

 保険外併用療養制度とは、新しい治療法や薬剤など将来的に保険に収載される可能性があるが、現在は自由診療と併用が認められている療養のことを指す。この保険外併用療養は、評価療養、患者申出療養、そして選定療養の3つに分類される。評価療養は、先進医療など、保険給付の対象とすべきかどうかを評価する必要がある高度な医療技術を用いた療養である。患者申出療養は、将来的に保険適用を目指すために計画が立てられる医療のことを指し(遺伝子パネル検査結果などに基づく分子標的治療など)、そして、選定療養は、被保険者の選定に関連する特別な病室(差額ベッド費)やその他の療養(制限回数を超える医療行為、大病院の初診など)を指すとされている。

選定療養

 選定療養は、評価療養や患者申出療養とは異なり、保険導入を前提としない保険外併用療養制度である。そして、今回、令和6年度診療報酬改定において、この選定療養に「長期収載品(後発品のある先発医薬品)に対する選定療養の仕組み」が導入されることとなった(6年10月から)。
 これは、医療上の必要性がない場合でも、患者が「長期収載品を使用したい」と希望した場合、患者が差額の4分の1を負担する。ただし、医師が医療上の必要性があると判断した場合などは、長期収載品を使用しても通常の保険給付が行われ、患者に特別負担は発生しない。

適用拡大への懸念

 今後、選定療養の適用拡大がさらに進み、従来は通常の保険診療行為であったものが、今回の「長期収載品に対する選定療養の仕組み」のように、患者の負担額が増えていく懸念がある。つまり、平等に給付されていた保険診療制度の維持が困難となり、そして、患者の負担軽減に対応した民間保険商品が登場、医療の市場開放化や皆保険制度の崩壊につながっていくことにも注意していく必要があるだろう。
 「市場開放を志向する混合診療は保険診療の範囲を制限して患者負担が増えても構わないという考えに基づくものである。すなわち、所得や資産の多寡により、受けられる医療の差をつけるものであり、我が国の医療を根底から覆し世界に冠たる皆保険制度を崩壊させるものである」と、医師会として混合診療を容認しない立場を松本吉郎・日本医師会長は5月に述べた。選定療養の適用拡大は混合診療とは違うとはいえ、恣意的な解釈で従来の良質な保険診療内容が、将来、選定療養化しないよう注意を払っていかねばならない。(葵)