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時の話題

市販薬のオーバードーズ問題

府医ニュース

2024年6月19日 第3075号

コロナ禍以降に急増

 風邪薬や咳止め等の市販薬を過剰摂取(オーバードーズ/OD)して、救急搬送される若者が増えている。2020年の全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査では、10代患者の「主たる薬物」は、14年は「危険ドラッグ」が48.0%で、市販薬は0であった。18年以降急速に増え、20年の市販薬のODは56.4%だった。
 国立精神・神経医療研究センターは、「薬物使用と生活に関する全国高校生調査2021」(21年9月~22年3月末、全国80校の高校生4万4613人対象)を実施した。過去1年間の薬物乱用の経験率は、大麻0.16%、有機溶剤0.10%、覚醒剤0.07%、MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン)0.08%、コカイン0.07%、危険ドラッグ0.07%、市販薬1.57%(大麻の約10倍)であった。
 過去1年間の市販薬の乱用は、高校生の約60人に1人の割合。乱用経験の高校生の特徴は①8割が女性②生活習慣として睡眠時間が短く、朝食を食べない、インターネット使用時間が長い③相談できる友人がいない④親に相談できず、家族との夕食頻度が少ない⑤コロナ禍の自粛生活に対するストレスが高い――などであった。つまり、社会的孤立という共通項がある。
 「なぜ人は薬物を使うのか?」の問いに対しては、①気持ち良くなりたい②パフォーマンスを上げたい③みんな使っているから④気分を変えたい――など。「青少年がODをする理由」には、①ひどい精神状態からの解放(72.6%)②死にたい(66.7%)③どれほど絶望的かを示したい(43.9%)④誰かに本当に愛されているか知りたい(41.2%)――であった。
 24年1月、厚生労働省は、乱用などの恐れがある市販薬について販売を規制する制度の見直し案をまとめた。20歳未満には▽1箱のみ販売(複数販売の禁止)▽目的の確認(乱用目的でないこと)▽購入者の確認(写真付き身分証明書)▽販売情報の記録▽インターネット販売では薬剤師によるビデオ通話による使用説明――を義務付けている。
 他方、20歳以上でも▽1箱販売が原則▽複数購入の場合はその理由および購入者の名前確認(写真付き証明書)▽インターネット販売ではビデオ通話が必要――と義務付けた。
 ODの学校での予防教育では、学校薬剤師の役割が重要視される。有効でない予防教育は、恐怖教育で、怖いイメージや脅しは良くない。教育者を信用しなくなる。また知識伝達型アプローチは、参加者の知識は改善しても、行動にはつながらない。それに対して有効な予防教育は、社会的・個人的スキルの向上で、知識伝達型アプローチに比べて薬物使用行動を減少させることが報告されている。
 市販薬の販売に関して、薬剤師・登録販売者がゲートキーパーとなり、悩みや相談を抱えた当事者に気付くことが大切である。気付いたら、声をかけ、傾聴し、信頼関係を構築する。そして見守り、必要があれば専門的支援につなぐことで、ODを防止する。