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時事

7月から続く事実上の第9波

府医ニュース

2023年9月20日 第3048号

公助削減は自助、共助といった民の力を奪う

 新型コロナウイルス感染症が、感染症法上の位置付けで季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行されて4カ月が経過した。本年6月、新型コロナ対策にあたる政府分科会の尾身茂会長(当時)は「全国的には感染者数が微増傾向で第9波が始まっている可能性がある」と首相との会談後に記者団に語った。また、7月5日には釜萢敏・日本医師会常任理事も「第9波に入ったと判断するのが妥当」と記者会見で述べた。これは大阪府内の発熱外来をしている現場医師の感覚と一致する。新型コロナサーベイランス週報で作成されたグラフを見ても9波入りは明らかであった。
 しかしながら、後藤茂之・新型コロナ対策・健康危機管理担当大臣(当時)は閣議後の記者会見の質疑で、上記の「事実上の第9波」という日医の発言を受け、「政府として今の段階で新しい流行の波が発生しているとは特に認識していない」と、現時点では「第9波」には当たらないという認識を示した。以降、報道でも断定しない形で「第9波」と今夏のパンデミックを表現していた。
 さらに、コロナ前から不況下にあったこともあり、新型コロナが5類になり経済活動が緩和されても経済指標は上向く気配もない。むしろ、他国との経済格差は開くばかり。デフレから悪性インフレというスタグフレーションの様相を呈している。加えて、夏休みが終わり二学期に入ると、新たにインフルエンザも学生を中心に猛威を振るっている。不況下で、子どもや自身が発熱しても仕事を休むことができない保護者も少なくない。
 そんな中、政府が新型コロナ治療薬に係る高額治療薬を、全額公費から10月以降9千円を基本として患者に自己負担を求める(所得に応じて6千円や3千円に軽減する)方針を打ち出したと一部報道があった。さらに、最大2万円の入院費補助は10月以降、1万円程度に減額するという。コロナ禍前の消費税増税で庶民の暮らしは厳しく、当然、消費も落ち込みGDPも落ち込んだまま。そして「実質上の第9波」下の公助の削減は、暮らしのために休養できず働かねばならないという人々に大きな負担となるだろう。
 かつて、菅義偉前首相は総裁候補者立候補の際『自助、共助、公助、そして絆』と自筆でフリップに記入し、目指す社会像を示した。「まず自分でできることは自分でやる。自分でできなくなったらまずは家族あるいは地域で支えてもらう。そしてそれでもダメであればそれは必ず国が責任を持って守ってくれる」という「自助ファースト」である。段階的に新型コロナ対策を縮小していくのであれば、他の経済政策で人々の暮らしを公助で守る、つまり、「公助ファースト」でなければ、自助と共助は発動できないだろう。
(葵)
追記:9月11日、加藤勝信・厚生労働相(当時)は大阪市内での講演で「『第9波』と言われているものが今回来ている」と述べたとの報道があった。