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時事
府医ニュース
2023年1月18日 第3024号
河野太郎デジタル相は2022年10月、マイナンバーカードと健康保険証の一体化に伴い、紙やプラスチックカードの健康保険証を24年秋に廃止する方針を発表した。マイナンバーカードの取得は「任意」である。持たない自由は保障されているはずである。しかしながら、既存の保険証の発行を停止するということは、マイナンバーカードがなければ医療を受けることが困難になる。つまり、国民皆保険制度のあり方を大きく変えてしまう可能性がある。
通常の保険証で受診すると、患者の窓口負担が増えてしまうことが、診療報酬上起きている。もともとは、マイナンバーカードで受診すると、窓口負担が増えてしまう逆の仕組みであった。これに対して土居丈朗・慶應義塾大学教授(行政改革推進会議議員など兼務)は、「マイナ保険証普及のためのもっと良い方策」として「医療機関にはアメではなくムチをうつのである」と自身のネット記事で述べた。通常の保険証で受診しなければ医療機関の収入を減らす、そうすれば「経営に支障を来すから、マイナ保険証が使えるようオンライン資格確認システムを導入しようとする」という論旨らしい。
しかし、実際は医療機関への金銭的なムチではなく、まず、療養担当規則が変えられオンライン資格確認を導入しなくてはいけない状況となった。その上で、普及のためマイナンバーカードで受診しなければ窓口負担が増額となるという形となっている。私は、国民皆保険制度の精神に立ち返り、マイナンバーカードの使用で窓口負担が変わること自体がおかしいと考える。窓口負担のインセンティブで、地域住民と医療機関を分断してしまったのではないか。
土居氏は別の記事にて「マイナンバーカードの健康保険証利用が、実態として義務的になる(保険者がプラスチックカードの保険証を配らないことにするなど)と否応なしにマイナンバーカードを持たざるを得なくなるだろう。政府が保有を強制しなくてもマイナンバーカードが普及する方法が今や出てきた」と述べている。この見解には私も同意する。実際そうなるだろう。
しかし、マイナンバーカードを保持したくない、あるいは保持することができない国民も存在する。政府はマイナンバーカードを保持しない人に対しては「別の仕組み」で対応するとしている。
既存の健康保険証を紛失した場合には「資格証明書」を発行することで一時的に保険を使えるようにする仕組みがある。もし、この仕組みをマイナカード不所持者に適応することになると、資格証明書の期間(現状は20日)が経過するたびに資格証明書の申請をしなくてはならない。これを採用するなら、少なからずの国民に著しい不便がかかることが予想される。
デジタル庁は、マイナンバーカードの取得は義務ではなく、申請主義のまま変わらないことを強調している。カード取得の「お願い」を今後も続ける方針だそうだが、現状、お願いではなく「マイナハラスメント」という形になるのではないかと危惧している。
(葵)