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医師・医療関係者のみなさまへ
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時事
府医ニュース
2022年11月30日 第3019号
マイナンバーカードの取得は法律上何の規定もなく任意であり、その義務はない。一方、医療機関においては、保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)の改定によりオンライン資格確認(オン資確認)導入が義務化される。しかし、オン資確認自体はマイナンバーカードがなくても保険証番号で行える。つまり、カードリーダー(補助金対象の顔認証付きカードリーダー、対象外の汎用カードリーダー)を常備せずとも保険証情報の手入力で、保険証でも今後も受診することが可能なはずだった。
10月、政府は、現行の健康保険証を令和6年秋に原則廃止するとの方針を発表した。冒頭で触れたようにマイナンバーカード取得は任意である。原則廃止とするなら、マイナンバーカード取得を義務化するか、もしくは、強制せずとも多くの国民が自然と保持する流れが望ましいはず。しかし、カード取得の義務化に関して政府は明言を避け「保険証の原則廃止」という発表を行ったのだ。これは政府によるモラルハラスメントの一種(ほのめかしを行いながら実質強制させる)のように見える。保険証の保持がなぜできないのか、「医療DX」や「統合による便利さ」では説得力がない。
オンライン資格確認システムでは、患者がマイナンバーカードをカードリーダーにかざすと、受診する医療機関で過去の医療情報を提供するかどうかの同意を問われる。複数の医療機関にかかっている場合でも、投薬や検査など過去の履歴すべてを受診医療機関で確認することができる。つまり、患者が選択的な医療情報の提供を事前に同意することができない。よって、患者が選択的な情報提供を望む場合は、マイナンバーカードリーダー使用時に患者は「医療情報の提供」に同意せず、従来どおり、受診時に患者から伝えたい情報を伝えるか、主治医からの聞き取りを行うことで可能となる。
現場で働く医療従事者からすれば、顔認証オン資確認でマイナンバーカードによる受診をしてもらえれば、登録された医療情報をすべて参照できるメリットがある。特に、救急医療の現場や災害時の医療ではその効果を発揮するかもしれない。また、政府や日本医師会が推進したいと考える医療DXも、この前提がないと推進することは難しいだろう。
しかしながら、医療とは患者・家族と医療従事者との信頼関係の上に成立するものである。従来の医療では医師と対面し、その診察の流れで、医師による医療情報の聞き取りが基本であった。
受診前に深く考えずに契約させられ、自動的に医療者に本人が望まない情報が提供される。自分の情報を「伝えたい相手」に提示するという権利の侵害である。さらには、信頼する医療機関以外の政府や委託業者などの第三者に、情報を管理される怖さが常について回る。信頼関係を構築した上で情報を取得すると教えられた私達にとっては、政府のマイナンバーカード政策は、国民との信頼関係を構築せず、強引に推進されているのではないかと思われる。
(葵)