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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

DNAメチル化で生物学的年齢を計る

府医ニュース

2020年12月30日 第2950号

 「年齢とは何か?」と問われたら府医会員諸兄姉はどうお答えになるだろうか。「そりゃ、生まれてから経った時間だろう」、もちろん正解である。しかし別の考え方もある。「組織や細胞の老化の程度、すなわち重視すべきは生物学的年齢である」、確かに一理ある。特にある程度年を取ると、後者で勝負すべきケースが少なくない。
 ヒトのDNAはしばしば損傷を受け、修復機転が働く。また時にはエピジェネティクに遺伝子が修飾され、それが細胞分裂後にも伝達され得る。そのDNA修飾の代表がDNAメチル化である。シトシンの水素基がメチル基に置き換わる。それによって原則として遺伝子は働かなくなる。これががん抑制遺伝子などで起こるとやっかいなことになるのだが、それはさておき、このDNAメチル化のレベルは生物学的年齢と強く相関しているという。すなわちDNAメチル化は生物学的年齢を知るための〝エピジェネティクス加齢時計〟として利用できる。
 ところで「イヌの○歳はヒトに例えたら○歳……」ということを良く耳にする。「それはイヌの大きさや犬種によって違うだろう」というのは正論である。故に正確を期すには検証を要する。そこでカリフォルニア大学のグループは、0.1~16歳のラブラドールレトリバー104匹と1~103歳のヒト320人の血液サンプルを用いてDNAメチル化を測定し、イヌとヒトの年齢の換算式を求めた(Cell Syst 2020 Jul1)。
 その結果導き出された式は、〝16×ln(イヌの年齢)+31=相当するヒトの年齢〟であった。この式で計算すれば、イヌは生後半年でヒトに換算すると20歳に達し、早くも2歳にしてヒトなら42歳、「不惑」を超える。12歳でヒトなら70歳、「従心」である。「七十にして心の欲する所に従えども矩を踰えず」の心境になっているのであろうか。ラブラドールレトリバーのたたずまいから、さもありなんと思わないではない。
 しかし、ミミズクの顔を見ると吠える近隣の老犬達もが従心に達しているとは思えない。そういえば、不肖ミミズクもまもなく従心だが、「心の欲する所に従えば疑うべくもなく矩を踰える」と断言できる。
 DNAメチル化を用いたエピジェネティクス加齢時計による生物学的年齢は知りたいし役に立ちそうだが究極の個人情報ともなり得る。各々方、ゆめゆめ油断めされるな……。

※lnは自然対数(常用対数の2.303倍)

【例1】生後2歳のイヌの場合 log(2)=0.301
16×0.301×2.303+31≒42 ヒト換算で約42歳となる。
【例2】生後12歳のイヌの場合 log(12)=1.079
16×1.079×2.303+31≒70 ヒト換算で約70歳となる。

 なお、文中の計算式はラブラドールレトリバーを想定し、他の犬種についても適用可能かどうかの研究が進められている。