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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

"飼い犬に手を噛まれる"という有害事象

府医ニュース

2018年6月27日 第2860号

 犬は人類の友であり、人によっては家族同然の存在であろう。そればかりではなく、犬を飼うことで心血管病の罹患や死亡リスクが低下し、このリスク低下は単身者でより顕著であるという(Scientific Reports Nov 7, 2017)。
 無論、犬を飼えば癒やされるし、散歩によって運動量も増える。ひいては社会とつながる機会も増すだろう。それが疾病リスクの低下をもたらす可能性は十分にある。では有害事象として何が考えられるか、それは「飼い犬に手を噛まれる」ということであろう。ミミズクは犬を飼ってもいないのに今まで2回も噛まれた。犬が悪いのか、はたまたミミズクに非があるのか、はっきりしたいのだが、このあたりに注目した研究は数少ない。
 ところが最近、英国リバプール大学のグループが、興味深い研究成果を発表した(J Epidemiol Community Health Feb1, 2018)。彼らはイングランドのチェシャー州の1260世帯を対象に、「犬を飼った経験」「噛まれた経験」「その時の状況」などを検討し、更に質問票を用いて感情的な安定性についても評価している。回答が得られたのは、385世帯の694人で、犬に噛まれた経験があったのは4人に1人、そのうち治療を要した人は3人に1人、入院するほどの傷を負ったのは0.6%であった。噛まれる頻度は18.7回/人口1千人/年と推計された。英国の飼い犬の数は約850万で日本とほぼ同じだが、人口は半分なので、相対的な"対人犬口密度"は日本の倍である。もし犬に噛まれるという事象が"対人犬口密度"に比例するのならば、日本では人口1千人あたり約10回/年、おおよそ1年あたり100人に1人くらいか。
 この英国発の研究結果が示すところは、まず男性は女性より1.8倍噛まれやすい。また、現在犬を複数飼っている人は、飼っていない人に比べて3.3倍噛まれやすい。注目すべきは噛まれた人の過半数(55%)は"全く面識のない犬〟に噛まれている、という事実である。文字通り"飼い犬に手を噛まれた"人は男性で17%、女性では16%にすぎなかった。また"感情的に安定"していると犬に噛まれるリスクはかなり低下した。
 なるほどミミズクは男性で、自身では悟りに達していると思っているのだが、犬からみれば精神的に不安定に見えるのかも知れない。このあたりは"犬解の相違"であろう。
 今後は老舗料亭にならい、「いちげん犬さまお断り」を徹底しようと思う次第である。