
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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時事
府医ニュース
2018年4月4日 第2852号
タスクシフトが医師の働き方改革の取り組みのひとつに提示されている。医師の業務の一部をコメディカルに移管することで業務軽減に役立つと期待されている。しかし、単に業務を移管しても目的を果たせない可能性を、タスクシフトせずに業務軽減が可能であった経験から考察する。
私の部署にいたコメディカルはキャリアアップを嘱望され、今春、祝福され送別された。配置転換には大きな失望感を味わったが、チーム医療を改めて考える機会となった。医師不足が問題となる研修指定病院では、医師は医師の人事ばかり気にするが、地域医療で重要な役割を果たすチーム医療のメンバーには、あまり大きな関心を払わない。当院のメンバーは、各部門からの混成部隊で構成され、これに医師の権限はない。コメディカルの面々の相性は、一緒に仕事を始めなければ分からない。更に、慣れないうちに定期的にメンバーが代わるため、与えられた自分の仕事以外に部署を越えた取り組みを積極的にできる環境にない。この状況は当院の特殊性かもしれないが、運営を任された医師の仕事量がかえって増え、チーム医療の本来の目的とは逆に、医療の効率が低下することがある。働き方改革でタスクシフトが先走りする不安はここにある。
過日、医療支援のため赴いた国立病院機構八戸病院では、医師不足のためコメディカル独自で企画するチームが多くの部門で運営され、有機的に活動していた。医師より、コメディカルの危機感が動機になったのであろう。一方、我々が送別した優秀なコメディカルは、危機感が動機ではなかった。当院でも活躍できる機会を作っていたのである。実際、チーム医療の本質を理解し、知識に奢ることなく仕事を遂行し、職域の限界を理解していた。我々に意見することも多々あった。しかし、指示も極めて短時間で済み、間違いなく処理していた。また、病院や地域での勉強会を定期的に主催し、そのことに私も寛容性を持っていた。患者やコメディカルへの教育企画は診療外の仕事で、タスクシフトの対象にはならないが、その部分を担ってくれたことで間接的なタスクシフトが行われたのである。私の目に見えない部分も、積極的に受け持ってくれたことで、全体の能率向上を縁の下で支えていたと思われる。医師にすべてを任せず、オーバーラップする仕事はできる範囲を独自の判断で遂行してくれたため、結果的に我々の仕事量が減少したのである。
コメディカルは医療の進歩とともに巨大化したが、保守化・固定化するとコメディカルの組織間に仕事の間隙が生じる。その間隙は消極的なメンバーであれば医師が埋めざるを得ないため、医師の過重労働につながる可能性もある。MA(医師事務作業補助者)制度は、そのような狭間業務として新たに誕生し、そのような間隙を間接的に証明している。だから新たなタスクシフトを頭で決めても、完全に組織間の間隙が埋められるかは疑問であるし、組織が大きいと逆にタスクシフトされるかもしれない。仕事を新設するのか、組織を柔軟に運用する方法を追求するのかの選択は、専門医制度改革とよく似ている。巨大化した医療制度を更に細分化するのではなく、むしろ大きくまとめ直す方向に世間は舵を切っている。診療所や個人経営の病院などでは、人事は経営者である医師により一元的に管理され、医師の仕事がしやすいように職域の調整が可能となる。しかし、大病院などではコメディカルの人事権が独立すると、見えない組織間の間隙の仕事を「押しつける」型の逆タスクシフトが発生しやすい。医師のタスクシフトを企画しても、働き方改革は医療者全員のものである。逆タスクシフトが起これば医療効率が上がらないのは自明の理である。タスクシフトは組織管理から見直さないと、働き方改革に逆行することがあり得るのである。(晴)