TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

本日休診

漂泊の思ひ

府医ニュース

2018年3月28日 第2851号

 旧暦3月27日は松尾芭蕉が「おくのほそ道」(この表記が正式だそうです)の旅に出立した日と言われています(現代の暦では5月になりますが)。
 「月日は百代(はくたい)の過客(かかく)にして、行きかふ年も又旅人也」で始まる「おくのほそ道」の序文で、芭蕉は旅に出たい気持ちが抑え難いと述べています。「片雲(へんうん=ちぎれ雲)の風に誘われて、漂泊の思ひやまず」という状態で、並々ならぬ強い思いだったようです。
 世の中の大部分の人は漂泊の旅に出ることはできません。そもそも農耕民族は定住が基本です。
 しかし、それゆえに漂泊の旅へのあこがれは、昔から人々の心の中にあったと思われます。江戸時代の「伊勢参り」はおおっぴらに旅に出る手段という一面があったようです。現代でも「さすらい」を歌った歌謡曲は数多くあり、テレビには旅番組があふれています。
 1980年代には、沢木耕太郎氏がインドのデリーからロンドンまで主として乗合いバスで旅した体験をもとに書いた小説「深夜特急」が人気を博しました。私も、男に生まれていたらこんな旅がしてみたいと思ったものです。
 芭蕉は春霞が立つ頃、いよいよ旅に出ずにいられなくなったようですが、私も最近しきりと「片雲の風に誘われて、漂泊の思ひやまず」のフレーズが心に浮かびます。
 しかし、年度替わり、且つ、診療報酬改定の春です。まったく漂泊している場合ではありません!(瞳)