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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

府医ニュース

2018年2月28日 第2848号

脳は薬価にだまされる……

 なんら薬効がない偽薬でも一定の効果が得られることがある。ご存じ「プラセボ効果」である。一方、偽薬によって"副作用"が生じることもあり、これを「ノセボ効果」という。このノセボ効果、意外にやっかいである。現にランダム化比較試験において、偽薬群に割り付けられた患者が副作用のために治験を離脱することは稀ではない。すなわちノセボ効果により、一部の患者では行うべき治療が続行できなくなる可能性があるのだ。
 最近、このノセボ効果が薬価の高低に左右されることを示す研究が発表された(Science 06 Oct 2017)。対象は健常ボランティア49名で、著者らは、"薬効成分を含まない偽薬のかゆみ止めクリーム"を試すよう参加者に依頼しているのだが、その際に"痛覚過敏が生じる可能性"を伝えている。そして49名中25人には"高価な薬剤"と称して、いかにも高そうな青い箱に入った薬剤を、残りの24人には"安価な薬剤"と称して、いかにも安っぽいオレンジ色の箱に入った薬剤を渡した。むろん両群とも中身は同じである。さて結果は、45度の温度刺激で誘発される痛みを指標にすると、"高価薬剤群"では"安価薬剤群"の約2倍強い痛みを感じ、継続すると〝高価薬剤群〟では次第に増悪し〝安価薬剤群〟では軽減した。また機能的MRIによる解析では、このノセボ効果は前頭前野での神経細胞活性化に関係していることが示唆された。
 著者達は、この2種の薬剤の"それらしさ"を演出するのにかなり力を入れており、箱の見た目に加えて、フェイクの薬剤ブランド名にも工夫を凝らしていた。専門用語で言う"ワル乗り"というやつだろう。とにもかくにも高価な薬剤だと認識すればするほどノセボ効果は発現し易い、すなわち脳は薬価に、つい騙される可能性がある。
 どんな治療でも副作用は不可避であり、その際、ノセボ効果にも一定の配慮が必要だろう。しかし油断も隙もない世の中、この研究結果を意図的に"先発品VS後発品"の切り口で解釈し、「先発品は副作用が多い?!」などという記事が出るかもしれないので要注意である。いずれにしても真理を透徹するためには、前頭前野を鍛えておくことが重要だ。無論不肖ミミズク、ノセボ効果とは無縁である。ただ食品を食べた後に期限切れに気付くと急に腹が痛むのだが。……関係ないことにしておこう。