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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓Returns

脂肪細胞の色を変えて肥満を治す

府医ニュース

2018年1月31日 第2845号

 もう言い飽きたが、21世紀最大の健康問題は肥満である。ところが肥満への治療介入は簡単ではない。食事療法、運動療法は継続が難しい。ミミズクも3日くらいなら大丈夫だが、それ以上だと自信はない……。「頭を丸めて坊主になれ!」というご叱責は甘んじて受ける。また重症難治性肥満には薬物療法や手術療法もあるが、治療関連有害事象も無視できない。となれば全く異なるアプローチに期待したいところだ。
 肥満の元凶は中性脂肪を溜め込んだ「白色脂肪細胞」である。しかし脂肪細胞には〝善玉〟もある。「褐色脂肪細胞」である。ヒトは生まれ落ちた時には「褐色脂肪細胞」を豊富に持っているのだが、歳をとるにつれて失っていく。すなわち「褐色脂肪細胞」は、いわば〝汚れ無き魂〟のようなものである。「私はまだ持っているぞ!」とおっしゃる方は、稀代の聖人か、または単なる勘違いであろう。「白色脂肪細胞」は油の塊のようなものである上、良からぬ生理活性物質を放出する。それに比べて「褐色脂肪細胞」は豊富なミトコンドリアを持ち、脂肪を燃焼させて熱を産生する。従って、もし「白色脂肪」を「褐色脂肪」に変換できれば理想的な肥満治療の道が開ける可能性がある。
 そこで米国のグループの最近の報告である(ACS Nano Sep 15,2017)。「白色脂肪」から「褐色脂肪」に転換させる薬剤を入れたナノ・パーティクルを局所注入できるマイクロ・ニードル付皮膚パッチを肥満モデルマウスに貼付し、3日ごとに交換すると4週間で脂肪が20%減少したという。この報告にも驚いたが、早速ネットで「どこで買えるのか、いくらするのか」という書き込みが飛び交ったことにもっと驚いた。
 この実験で使われた薬剤はTZD系インスリン抵抗性改善薬であるロシグリタゾン(日本未認可)とβ3アドレナリン受容体アゴニストのCL316243である。前者は10年ほど前に欧米で心有害事象に関して一悶着あった薬剤である。ヒトへの臨床応用には脂肪細胞転換のための局所療法が、全身性有害事象を起こさないという見極めが必要であろう。それに"パッチだけで楽々痩せる"というのは話がうますぎないか。よけいに生活習慣が荒れるのではないか。ここでミミズクは警鐘を鳴らしたい。″no pains,no gains!″……「でもやっぱり楽がしたい……」というご意見もあるだろう。遺憾ながら全く同感である。