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時事

今後の「医療」方向性を検証

府医ニュース

2017年11月15日 第2838号

全国医師会勤務医部会 特別講演から

 10月21日、平成29年度全国医師会勤務医部会連絡協議会が北海道で開催された。この中で、内閣官房健康・医療戦略室次長の大島一博氏が、「人口減少時代の医療提供」と題して講演を行い、個人的見解を交えつつ、厚生労働省の今後の医療に対する見通しを述べられた。
 現在の我が国の問題点として、高齢化や人口減少のほか、経済鈍化、財政の逼迫などが挙げられる。人口は全体的に減少傾向にあるが、人口バランスには大きな変化はないと予測される。高齢化率は2060年に40%となりピークを迎えると考えられるが、年金保険料は今年9月の引き上げを最後に固定される一方で、給付水準は下降し、今後、財政との兼ね合いが重要な政策になる。
 医療は30年、介護は60年までの計画が必要である。過去20年で医療費は急増し、40兆円にまで達した。GDPも増加してきたが、経済の伸びの割に医療費が増大している。このことが医療関係の雇用を発生させてきた経緯はある。しかし、増加する費用を賄うには、実質成長率2%、物価変動の影響を加味した名目成長率3%が最低必要である。医療の伸びに、どのように対処していくべきかが政策の要となる。医療費の増加は、高齢化以外の要因――医療の高度化、調剤や新薬の伸びによるところが大きい。医療・介護については、都市部では地域によって増加しているところもあるが、入院の伸びは横ばいで、外来は横ばいから低下傾向にある。一方で、歯科受診率は増加している。入院や外来の診療件数の低下に関しては、『なぜか知らないが日本人が若返っている』と婉曲的な表現をされていたが、歯科領域の進歩に伴う口腔ケアが誤嚥性肺炎を抑制させた可能性や、スタチンが心筋梗塞の発症を低下させたように、「医科以外が進歩したために医科が縮小せざるを得なくなった」可能性があることには言及されなかった。
 さて、政府の対策として、1患者負担の増加、保険給付範囲の縮小、診療報酬の抑制などの方法論は限定的ではないかとの見解を示した。過去に厚労省が実行してきたが、国民への影響も大きく、かつ政治的な影響を考えると役所レベルだけでは対処できないとの見通しを立てている。これに対して、現在の主流は、2ジェネリック医薬品の推奨、入院期間の短縮や在宅医療を推進する政策をかかりつけ医や市町村とともに展開すること、多剤服用対策――など、医療提供方法の見直しにより医療費を抑制する政策を推進している。これらは即効性や確実性で劣る部分がある。次の柱として、3医療費の抑制効果には懐疑的な意見があるものの、予防健康管理、医療の質の向上が挙げられる。中高年の糖尿病予防(重症化予防を含む)、高齢者のフレイル対策など、医療保険者・事業主・市町村が連携し、各種インセンティブ措置をとりながら実施する。また、自立支援型介護や地域包括ケアなども推進している。
 具体的な解決策以外として、将来的に、4科学技術の進展とICTの活用を述べた。合理的な価格かつ画期的な治療薬や検査薬の開発が、認知症やがん等の分野で期待されている。ICTはまだ曖昧模糊としており、AIやクラウド型オンラインデータの扱いなども課題であるが、1バイタルデータの日常的な管理や診療支援ソフトのような電子カルテで使用する様式が多様なもの、2レセプトのように様式の統一化が可能なもの――を分けて考えていく方針である。日本にはレセプト、特定健診、介護といったビッグデータがあり、これらを活用すれば医療の質向上と効率性が高まる期待があるとした。最後に、医師会等の専門団体との連携で、地域づくりを進めていくと話を結んだ。(晴)