
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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ミミズクの小窓
府医ニュース
2017年10月25日 第2836号
「自分が自分であるための重要な臓器は何か?」と問われれば、多くの人は「それは脳だ」と答えるだろう。やはり"心の座"である脳には、いつまでも健やかであってほしい。しかし立ちはだかる壁がある。"加齢による認知障害のリスク"である。
となれば、そのリスクを少しでも減らしたいと思うのが人情であろう。そこで今年の6月22日、国立衛生研究所(NIH)と国立加齢研究所(NIA)の求めに応じて、全米科学・技術・医学アカデミー(NASEM)が認知機能低下予防における現在のエビデンスに関する報告書をまとめた。対象になった介入は、「認知機能トレーニング」「血圧管理」「運動」の3つである。なお、その他にも10種類の介入についても検討されたが、まともなエビデンスがなく"予選落ち"であったようだ。
さて3つの介入の効果についての評価は"encouraging although inconclusive"であった。"決定的ではないが有望""確証はないが見込みあり"期待しても良いけど裏切られるかも"……。受け取り方は人それぞれだろう。「認知機能トレーニング」は最善の方法論が確立していないところが難点である。「血圧管理」は認知障害予防作用があろうとなかろうと、やらないとまずいだろう。「運動」は最近多数の肯定的な研究結果が報告されていて、確かにかなり有望だと思われていたのだが……。
ところが時期を同じくして、仏・英の研究者から身も蓋もない論文が発表された(BMJ 357:2709,2017)。1万308人を28年間フォローアップしたWhitehall2コホート研究で、運動の強さ、費やした時間と認知機能低下との関係を検討している。結論は「運動には神経保護作用は全くない」であった。著者らは言う。"認知症と診断される平均9年前から運動量が低下するので、「運動をしている人達では認知症リスクが低い」とする研究は、単に原因と結果を取り違えているだけである……。"
もうちょっと書きようがあるのでは、と思わないではないが、まあ、それは仕方あるまい。それでもミミズクは他に重大な病気がないのなら運動を勧める。なぜならこの論文を信じるならば、運動が続けられるならまだ認知症の前段階に入っていないことが期待できるからだ。予防は無理でも束の間の安心が得られる。贅沢を言ってはいけない。"安心"も、そしてたぶん"幸福"もこの世では"束の間"と相場が決まっているのだ。