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医師・医療関係者のみなさまへ

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モラルとコストを天秤にかける医療は正しいのか

府医ニュース

2017年10月25日 第2836号

 外国人技能研修という制度がある。発展途上国の若者に我が国で技能を習得させ、彼らの帰国後母国で伝達し途上国の社会発展をサポートするという。新聞報道によると、その技能研修の対象職種の中にコンビニの店舗運営が加わるとあった。コンビニ業界の申し出に対し政府は、有識者会議で問題がなければ認める方針らしい。同業界からは「コンビニ各社は海外出店を積極的に行っている。外国人には、日本で技能を習得して、出身国や文化の近い近隣の国に戻り、それぞれの国の幹部人材として働いてほしい」「人手不足が原因でない」という意見が出ている。
 一方、地方の縫製業者が外国人技能実習生に最低賃金を下回る賃金しか支払っていないケースが相次いでいたことが報道された。結局、企業努力の名の下、制度がコストカットに使われてしまう現状がある。こうなることは分かっているのになぜ制度化してしまうのか。
 医療界にもこの流れが、「医療のグローバル化」という美名によって適応されかねない。外国人医療人の国内投入と合わせて、全医療人の低賃金圧力につながることを念頭に置かねばならない。医療人の労働環境の改善は、デフレ下においては第一に医療費の充実である。医療費削減が続けば経営が安定せず、満足な医療を国民に提供できない。
 産業界で最近コストカットの末起きたと思われる不正問題がよく報道される。個人や企業のモラルが原因とされるが、そのモラルを破壊しているのは誤った経済政策なのではないのか。更に、多くの医師会員はこれを別業界の問題だと思ってはいないだろうか。長年デフレ経済を放置し続けたことによるコストダウンのしわ寄せは、公的病院のみならず中小医療機関をも直撃し、医療ミスや不正、そして医療人の低賃金を誘発してしまう。現場の医師達がコストとモラルを天秤にかけながら医療を行わねばならない状況だけは防がねばならない。(真)