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医師・医療関係者のみなさまへ
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府医ニュース
2017年10月25日 第2836号
大阪府医師会は10月14日午後、府医会館で「第39回大阪の医療と福祉を考える公開討論会」を開催し、約300人の府民が参集した。今回は「最期に『のぞむ』――救急医療の現場から」をテーマに、仮想事例を通して「人生の最終段階」を巡り議論した。
当日は、上田崇順(たかゆき)・毎日放送アナウンサーの司会で開会。2つの仮想事例を基に、加納康至副会長、鍬方安行理事、高井美紀・同アナウンサーが意見を交わした。
第2部では映画試写会として、「8年越しの花嫁」(配給:松竹)を上映した。
高齢化の進展とともに、「多死社会」となる。医療者は救命を第一に考えるが、同時に「尊厳ある人生」も考慮する必要がある。すべての人間の生命には限りがあるからこそ、「人生の最終段階」をしっかりと考えておかなければならないと思っている。
9月に厚生労働省が公表した「医療費の動向」では、14年ぶりに医療費がマイナスとなった。しかし、これは高額医薬品の引き下げが大きな要因であり、更なる高齢化や医療技術の進歩などを鑑みると、今後も医療費が低下することは考えにくい。こうした中、国は地域医療構想や地域包括ケアを提示し、医療費抑制につなげようと企図している。「人生の最終段階」における医療が、経済的な観点から論じられることを懸念する。医師会では、府民の皆さんが住み慣れた地域で健康に、安心・安全に暮らせるよう活動を続けていく。今後も大阪府医師会の活動に支援・協力をお願いしたい。
討論会では、事例の経過を追いながら、救急医療現場での対応を鍬方理事が提示。まず、治療開始後は、突然の事態を受け入れらない家族の気持ちを配慮しつつ、現状や予後を「客観的」に説明することが求められると述べた。事例は、患者の容体が明らかになるにつれ、家族間で望む治療内容に齟齬が生じ始める。治療の差し控えに関して、日本医師会『医師の職業倫理指針』より、「医師は(積極的)安楽死に加担すべきではない」との一文を引用。更に日本救急医学会・日本集中治療医学会・日本循環器学会の合同見解から、脳に大きな障害が後遺するものの、生命の維持が見通せる段階では、「治療の差し控えはできない」との結論を示した。あわせて、集中治療が開始されると家族の意見だけでは治療が決められないとの現状を伝えた。
2つ目の事例では、最初の症例と経過は同じであるが、「年齢」と「要介護状態」という相違点が設定され、「生前の意思表示」を中心に議論が展開された。鍬方理事は、救急医療の現場では「生前の意思表示」が確認できず、治療が開始されることが多いと前置き。そのために、患者の希望は考慮されにくい状況であるとした。一方で、かかりつけ医と「意思の疎通ができていること」が確認できれば、蘇生処置の選択に幅ができると加えた。
事例を基に進行される中、高井氏は「家族の視点」から意見を提示した。最初の事例では、実際に年齢の近い子どもを持つ親の立場として、現状を受け入れ難い心境を吐露。集中治療室で付き添って患者を励ましたいが、面会時間が制限される現状に不満を持つ母親像に理解を示した。
2例目では自身の両親との会話の内容を交え、「人生の最終段階」に関する思いに言及。「延命治療を希望しない」とする両親の希望は確認しているが、その場に直面した場合の不安や揺れ動くであろう気持ちを率直に語った。一方、自身が「エンディングノート」を購入したものの、白紙であることを紹介。また、延命治療や尊厳死といった項目もあり、「家族と話しながらページを埋めたい」とした。そして、「終末期は避けたい話題ではあるが、口に出して共有することが大事」と述べた。
府医救急災害・医療部長の立場から、加納副会長が大阪府の救急医療体制を説明した。また、65歳以上の高齢者の救急搬送に触れ、「全体の約57%を占める」と指摘。施設からの搬送も散見されるなど、超高齢社会が反映された側面と述べた。一方で、「延命治療を望んでいない患者」が救急搬送された場合、救急医療現場では救命を最優先した治療が行われると強調。患者の「最期ののぞみ」がかなえられなくなる現実や、救急医療現場の疲弊といった課題が挙げられた。更に、人生の最終段階においては、患者や家族に寄り添う「かかりつけ医」の役割が一層重要になるとし、「医師会でも講習や研修会を充実させたい」との方針を示した。その上で、▽「命の議論」には正しい答えはないこと▽延命治療がある程度可能になった現代だからこそ、「人生の最終段階における医療」を考えることが重要▽延命治療の終了を提示できる社会的環境の整備が必要――などと訴えるとともに、深刻な話は避けたい気持ちは理解できるが、「あえて人生の最終段階を考え、意識することが大切」と語りかけた。
18歳男性。遊泳中の事故で、心肺停止状態で蘇生処置を受けながら救命救急センターに搬送。発見から40分後に心拍再開するも、昏睡状態のままで集中治療室に収容される。自発呼吸はなく、機械的人工呼吸治療を継続。たびたび低血圧を来し、循環が不安定なため昇圧剤の持続投与を必要とする状態が続く。その後の治療により生命の危機を脱し、40日後に遷延性意識障害のまま転院。
85歳男性。要介護4で高齢者施設に入所中の方。体調不良を訴え、そのまま意識を失う。施設の職員が119番コールで救急車を呼んだ。搬送から転院までの経過は「事例1」と同じ。