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時事

女性医師支援

府医ニュース

2016年11月2日 第2801号

キャリアを継続し、地域医療を守る

 米国の大統領選、英国の首相や東京都知事など、女性の社会進出はめざましい。世の中が着実に変化してきていると実感する次第ではあるが、飛び抜けた才能を持つ女性が目立ったからといって、多くの女性が同じように行動できるかどうかは別の問題である。確かにこの10年、女性医師の環境は変わったと思うが、あと一歩、地道な取り組みが必要である。今年度の全国医師会勤務医部会連絡協議会(日本医師会主催)が11月26日、大阪府医師会の担当で行われる。この場で大阪における取り組みを全国に発信する予定である。詳細は追って紹介する予定であるが、今回は南河内における現状を記述する。
 約10年前の医療崩壊の時、大阪では特に大和川より南部が大いに荒廃した。現在でも完全に医師不足が回復したとは言い難い。当事者の医師が去った後、医療崩壊を糾弾する声が小さくなっただけである。しかし、医師不足の科では、近隣病院で相互に補い合うという「病院の特殊化」が進んだ。大学医局もそうした科に集中的に医師を送り込む好循環が訪れた。それぞれの拠点化が進むと、人数に余裕ができ、女性医師支援も活発になってきた。しかし、当地での次の課題は、閉鎖されずに少ない医師数で何とか頑張ってきた科に属する女性医師への対応である。拠点化が進んだ科は当然のことながら「キャリアアップ」という高度な目標に取り組めるが、これらの科を守っている医師にも配慮した体制を築くことが重要である。
 南河内に4カ所ある中核病院の女性医師比率は約25%である。6月に女性医師支援シンポジウムを開催し、4病院で保育施設が完備していることを確認した。運営形態は各病院様々で、外部委託または自前で行っている。外部委託の場合、その質に不安を持つところもあったが、結局はスタッフの質が大切である。保育士の人材確保が困難な夜間の対応も含め、外部委託でも安心できる内容であれば問題なく運営されている。また、病児保育については夜間の必要度は低いが、院内であれば小児科医の協力が最大のポイントになる。病児保育を行う病院はどこでも、人数的に医師よりも看護師の利用が多い。医師のみを差別化することは難しく、やはりこれが小児科医への負担となる。
育児休業に関しては、産後の2~3カ月の完全休業はやむを得ないにしても、既定の産後休暇制度は、「全く仕事に就かない期間が長すぎる」との意見が出た。ある程度育児が軌道に乗ると、画一的に休むのではなく、余裕のある時間の有効利用を考える医師が多い。1年のブランクは、仕事の勘が鈍る弊害の方が大きく、育児期間内でも短時間勤務の希望が多い。既存の枠にとらわれない勤務制度は、顔つなぎや緩徐ながらも仕事が進み、キャリアアップにも継続効果がある。更に、「育児」という機会に自らの視点を変えることで、膠着状態に陥っていた研究の発想転換が行われることがあるかもしれない。この点に関しては、短時間常勤制度が認知され、一部で広がりつつあるのが現状であった。
 年功序列制度に代表されるように、仕事の不満は給与の硬直性に端を発することが多い。女性医師の子育てを応援する側への柔軟な給与体系は、残された医師の活性化につながるし、子育てする側も給与に見合う就業量を確保するだけでよいから、無理なく育児に専念できる。一方、このような体制でもカバーできない科では、院長裁量で個別に対応していた。個人的な時短制度を設けることで、短時間ではあるが専門科を存続させていた。短時間勤務でも専門性が発揮できる環境の確保は、専門医には職場の確保となり、病院にとっても専門性を対外的に広報できるメリットがある。ただ、院長裁量は局所的ルールで決められるため、周囲の医師の不満につながる懸念もある。また、働く女性医師にも無言の圧力となる。うまく運用されている事例を周知するとともに、そのノウハウを府医で共有していくことが重要である。そして、少数で構成される科を過剰労働から守ることで、地域医療の質を落とさない広義の利点を広報することも必要である。(晴)