TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓Returns

水を飲むと太らない?

府医ニュース

2016年10月26日 第2800号

 「カロリー制限ですか? もちろん頑張っていますよ! でもね、先生、ワタシ、水を飲んでも太るんです~」……府医会員諸兄姉は、このように言い訳する患者さんに出会ったことはないだろうか? これぞ有名な"水でも太る物語"である。さてどう答えるべきか? 「そりゃ大変だ~でも頑張りましょうね~」は流し過ぎであろう。とはいえ、某有名雑誌のレフェリーのように「あなたは過去数十年の臨床栄養学の歴史を愚弄している!!」とマジ切れするのも大人気ない。ここは「いえいえ、そうではありません(ここでラジオ歌謡『朝はどこから』を思い出した方は、大ベテランであろう)。水を飲む方が太らないんですよ~ちゃんと証拠もありますよ~」と返してみるのはいかがだろうか。
 最近、ミシガン大学(アナーバー)のグループが「米国成人における不適切な水分摂取、BMIと肥満」と題する論文を発表した(Ann Fam Med 2016)。対象は9528人、平均41歳(18~64歳)、男女比はほぼ半々である。水分摂取は尿浸透圧で評価し(mea±SD:631.4±236.2mOsm/kg)、800以上を「水分摂取不適切」すなわち摂取不足と定義しているが、全体の32.6%が摂取不足と判定された。水分摂取不足群は摂取正常群に比べ、BMIが1.32高く、BMI30以上の肥満リスクが1.6倍高かった。著者らは、糖分を含まない水分を適切に摂取してhydrationを改善することが、過食を防ぎ適正な体重維持・肥満解消に有益としている。
 この結果、確かになるほどな~と思わせるところがある。特に「何か食べたいな~と思っても、それは単に喉が渇いているだけであることが多い」という指摘は思い当たる。食べたくとも、ぐっと我慢してまず水を飲む。「茶腹も一時」という諺もあるし……。
 「そんな説明をしても患者さんは簡単には納得しないだろう!」というご意見、一理ある。ここは物語には物語で対抗するのが得策だろう。「大丈夫、水では太りません。それどころか水をたくさん飲むと若返ってキレイになりますよ~聞いたことありませんか、この話?」すなわちanti-narrative narrative therapyである。えっ、嘘はいけないって?! でも「医師の嘘は方便」と言うし……。えっ、違うって?! 方便は仏の嘘?! そうか、ミミズクは本性、ほぼ仏なので、つい勘違いしてしまった。