
TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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ミミズクの小窓
府医ニュース
2016年8月31日 第2794号
テロメアは染色体末端にあって染色体を保護し、細胞分裂回数を制御することにより細胞寿命に深く関与している。「テロメア」は不思議な響きを持つ言葉だ。初めてこの言葉を耳にした時、若き日に読んだロバート・A・ハインラインの古典SFの名著『メトセラの子ら』をふと思い出した。不老不死の形質をもつ一族の"宇宙流離譚"である。テロメア、メトセラ、どちらも寿命に関わっている上に母音が同じである。これは果たして偶然だろうか? 「偶然に決まっているじゃないか!」というご意見、異論はない。
「テロメア病」は遺伝子変異によるテロメアの維持・修復の異常があり、骨髄機能不全、肝硬変、肺線維症、がん罹患率の増加を来す疾患群を指す。小児科領域の「先天性角化症」はその代表的疾患だが、「テロメア病」の疾患概念はより広く、造血幹細胞のテロメア異常短縮による血球減少が基本症状である。一方、骨髄機能不全による血球減少に男性ホルモン誘導体であるダナゾールが一定の効果を示す。そして男性ホルモンはテロメア伸長作用をもつテロメラーゼを調節しているとする報告がある。
そこで米国国立衛生研究所の研究者らは27例のテロメア病患者でダナゾールの効果を検証した(NEJM 374:1922,2016)。phase 1-2の前向き研究である。結果は、主要有効性評価項目の「24カ月時のテロメア短縮率/年の20%低下」が評価可能患者12例全例で達成され試験は早期に終了した。血液学的改善も24カ月の時点で83%にみられ、副作用も許容範囲であった。ダナゾールのテロメア病での治療研究は出だし順調である。無論一般臨床レベルでの治療の益と害に関する詳細な解析は今後の課題であろう。
”テロメアと臨床”という括りでの夢はふくらみつつある。しかし既に遺伝子ビジネスとして”あなたのテロメアの長さと遺伝子の強さ、計ります!”などという情報が氾濫している。やはりこれはフライングではないか。ここは老ミミズク心ながら警鐘を鳴らしたい。寿命予測においてテロメア長と従来の指標とを比較した研究がある(Glei DA et al. PlOS ONE April 6,2016)。それによるとテロメア長は寿命予測因子として”おみくじに毛が生えた程度”(somewhat better than random chance)に過ぎないそうだ。一方、ダントツに優れた指標はやはり「年齢」……妥当な結論である。何しろ生年月日だけで分かるし、ビジネスに利用される心配もない。