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医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓 Returns

“貧乏ゆすり”という名のNEAT

府医ニュース

2015年12月30日 第2770号

 人体が消費するエネルギーのうち、「運動によらない日常生活での身体活動によるエネルギー消費(熱産生)」をNEAT(nonexercise activity thermogenesis)という。「ニート」と読めるが、ニート、ニートと連呼するのは差し障りがあるので、ご注意頂きたい。
 さて肥満対策には適度な運動が有益であることは論を俟たず、18~64歳では1週間に中程度の運動150分または強い運動75分が推奨されている。しかし「そのくらいならいつでもできるわ~」と思う人は多いが遵守できる人は多くない。座位時間が長い、あるいは体をあまり動かさない、という“sedentary behavior”がはびこっている昨今である。ここは発想の転換が求められる。
 そこでNEATである。この分野の大家であるメイヨー・クリニック内分泌科のLevine博士の論文を読むと、このNEAT、ゆめ疎かにはできないことが分かる。NEATには歩いたり、立ったりはもちろんだが、“貧乏ゆすり(fidgeting)も含まれる。臥位安静とエネルギー消費を比較すれば、じっと座っている場合にはほぼ不変(4±6%)だが、座位の貧乏ゆすりで54±29%に増加する。またじっと立っているだけでは13±8%の増加に過ぎないが、立位に貧乏ゆすりが加わると94±38%まで増加する。緩徐歩行で約150-200%の増加なので、貧乏ゆすりもバカにはできない(Am J Clin Nutr 2000)。
 更に最近、この貧乏ゆすりが全死亡リスク低下に寄与する可能性を示す研究が英国のグループから報告された(Am J Prev Med 2015)。37~78歳の女性約1万3千例を対象として座位時間と“貧乏ゆすりの程度”で全死亡リスクを検討したものだ。座位時間が5時間未満の群に比較して7時間以上の群では全死亡率が約30%上昇するが、貧乏ゆすりをある程度以上しているとこの全死亡リスク上昇は打ち消されるらしい。またしっかり貧乏ゆすりをすれば死亡リスクの減少さえ期待できるという。貧乏ゆすり、恐るべし、である。
 しかしミミズクには多少異論がある。貧乏ゆすりは一般に“落ち着きがない”とか“マナー違反”とされがちである。そこは健康のために目をつぶることは吝かでない。しかし隣で派手に貧乏ゆすりをされると正直イライラするだろう。イライラすれば交感神経が刺激されて血圧も上がって……そう、研究観察対象の全死亡率は下がるかも知れないが、観察対象周辺の全死亡率が上がる可能性があるのだ。これを“collateral damage of fidgeting”と名付けたいが、あえて賛同は求めないでおこう。