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ミミズクの小窓 Returns
府医ニュース
2015年11月25日 第2767号
ふと、“古き良き日本”の牧歌的風景を目にすることがある。現代と比べ、得たものと失ったものに思いを馳せる時、感慨が胸に迫る。「何か悪いものでも食べたのか?」と思われる方、心配ご無用である。不肖ミミズク、けっこうnostalgicな生き物なのだ。目に見えるものだけではない。目には見えないものもまた、失われたのだ。
アレルギー性喘息は、好酸球性慢性気道炎症と杯細胞化生による気道過敏性が特徴である。ハウスダスト、ダニ、花粉、カビ胞子を抗原とし、気道上皮細胞・樹状細胞に発現するパターン認識受容体を介する免疫反応によって生じる。小児では遺伝的素因と環境因子が重要だが、酪農場で育つことが喘息発症に防御的に働くことが知られていた。
そこで欧州のグループによるScienceの論文である(349:6252,1106-10,2015)。農場環境で成長すると、エンドトキシン-グラム陰性菌細胞壁由来のリポ多糖類(LPS)-への暴露が生じる。この環境下ではアレルギーが抑制されるが、今回紹介する研究はマウスとヒト気道上皮細胞を用いた実験系でそのメカニズムを明らかにしている。すなわちLPS暴露は、樹状細胞を活性化する気道上皮細胞のサイトカイン産生を低下させ、type2(Th2)の免疫反応を抑制することによりLPSやハウスダスト、ダニによる喘息の発症を抑制する。しかしこの時、炎症シグナルを制御する酵素であるA20タンパク質が肺上皮に十分発現している必要がある。すなわち、このアレルギー抑制作用の鍵を握るのはA20だということだ。
ヒト免疫機構の屋台骨を支えるのはヘルパーT細胞である。「免疫には骨なんかないぞ」というご批判はご勘弁願いたい。さて、ヘルパーT細胞は細胞免疫を活性化するTh1と液性免疫を活性化するTh2の2つに大別され、そのバランスで免疫応答が制御される、というのがTh1/Th2バランス理論だ。Th1>Th2だと、感染防御・腫瘍免疫・炎症反応が賦活され、アレルギー反応は減弱する。Th2>Th1では逆にアレルギー反応が増強する。そしてTh1が増強する代表的な環境がLPS等に暴露されやすい――論文中の表現を借りれば、“infectious pressure”の強い環境である。これが弱くなればTh2優位になる可能性がある。
戦後発展した日本はその代償としてnostalgicな原風景を失い、ついでに適度の“infectious pressure”も失った。この過程で免疫機構もある意味“甘やかされ過ぎた”のかも知れない。いわば免疫に対する“ゆとり教育”の代償がアレルギーの増加なのであろう。というわけでミミズクは“ゆとり教育”には反対である。なぜならば…それはきっと“勉強アレルギー”の増加につながるからだ。やっぱり少し無理あるかな~この論理展開は……。