TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ
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ミミズクの小窓 Returns
府医ニュース
2015年8月26日 第2758号
病名の付け方には様々な方法がある。中核症状、病態生理や病理学に基づいたもの、発見者や初めて報告した研究者に敬意を表してその名前を冠したもの、更に症候から連想されるものを隠喩として表現するものもある。ちなみにミミズクの好みの病名は「不思議の国のアリス症候群」「なまけもの白血球症候群」である。まさに「名は態を表す」病名ではないか。しかし、世界的な脅威となる新興感染症に病名を付けるときは、ともすれば国や地域に対する差別や動物虐待、あるいは経済活動への風評被害に繋がることがあり、より慎重な態度が求められそうだ。
去る5月8日、WHOは新興感染症を名付ける上での”best practice”を発表した。事務局長補ケイジ・フクダ氏曰く、「ブタインフルエンザ」や「中東呼吸器症候群」などは特定地域のイメージダウンや往来や交易の阻害、ひいては特定の動物の虐殺に繋がり、地域の生命や生活に深刻な結果をもたらす……確かに事実そうなっている。
そこでbest practiceである。まず「主要症状」(呼吸器症状、神経症状、水様性下痢など)が示されていて、更に「重症度や季節性などの追加情報」(進行性、若年性、重症、冬型など)を含む方が良い。また、病原体が既知の場合には、ウイルス名なども加えることが推奨される。
逆に避けるべきものは「国名・地域名」「人名」「関連する動物名」である。従って上記2疾患以外でも「スペイン風邪」「リフト・バレー熱」「クロイツフェルト・ヤコブ病」「シャーガス病」などはNGである。特定集団を意味する「レジオネラ病」もダメだそうだ。在郷軍人会からクレームがあったのかも知れない。なお「原因不明」「致死性」「伝染性」などの形容句も不安を煽るので良くない。
となれば、「日本脳炎」は文句なしにアウトである。そこでこのbest practiceに沿って考えてみる。「小型アカイエカ媒介フラビウイルス脳炎」Culex tritaeniorhynchus-borne flavivirus encephalitis はどうか。ただちょっと長いし読みにくい。実はミミズクは生物学の学名の発音が苦手なのだが、「私もそうだ」と思う方もおられるのではないか。だから人前で音読する場合にはちょっと工夫が要る。「……クレクス」のあと、「ゴホン、ゴホン」とむせたフリをして「……フラビ・ヴァイラス……」と続けるのがコツである。ただし同じことを何度も繰り返すと、すぐばれるのでご注意されたい。