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勤務医の窓
府医ニュース
2015年7月15日 第2754号
『総合診療医』が、疾病の初期段階に的確に対応でき、日常的にみられる疾患や外傷の治療を行う能力を身につけ、必要に応じて専門医に紹介したり継続的診療を行ったりする医師であるとすれば、そのような医師が都市型の医療圏において必要とされるであろうか。
我が国の医師免許証があれば、確かに外科、内科をはじめすべての診療分野における医療行為は可能である。しかし現実には、多くの医師は専門分野を持ち、患者がフリーアクセスで医療機関を選ぶ際も内科、小児科、外科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科などを区別して受診することが多い。また、医療機関においても自らの専門性をアピールポイントにしているところが多いのが実情である。
総合病院では、各専門分野において質の高い医療を提供することが要求され、それぞれの分野における専門医が日常的に診療を行っている。
しかし、一方で総合的診療能力を問われる領域もある。救急医療、初診外来、時間外の当直業務である。特に時間外における救急診療や当直業務においては幅広い専門分野における総合的診断能力が求められるが、少なくとも治療面においては内科医が外科的治療までを行う必要性は通常ないと思われる。
むしろ問題は、内科医であっても更に細分化された臓器別専門医(消化器内科、循環器内科、呼吸器内科など)の診療のみに従事していることで、総合的な内科的診療能力が次第に失われていくことにある。救急診療や当直業務に支障を来すだけでなく、自ら担当する患者の合併症についての診断が遅れたり、最善の医療が提供できなかったりする恐れがある。特に最近は、高齢の患者が多く、何らかの合併症を有しているのが普通であればなおさらである。
従って、細分化された高度の専門的医療にのみ専念する医師以外に、総合的診療能力に長けた医師が数多くいてはじめて総合病院は全体的な医療の質が担保されると考える。かと言って、余りにも幅広い専門分野での総合診療能力を求めれば、それぞれの分野での医療の質は低下するであろう。
結局、内科なら内科といったある程度限られた範囲での総合的診療能力を高めることが現実的と思われる。個々の医師が自らの努力で専門医としての高い診療能力を維持しつつ、できるだけ診療領域の幅を広げることが望ましいが、広げる幅は医師個人の能力や適性に委ねざるを得ない。
今後ますます高齢化が進む我が国において、より効率的で質の高い医療を提供するためには、制度化された画一的な『総合診療医』を多く育てるよりも個々の医療環境に応じて様々なスペクトラムに変化する専門分野で総合的診療能力を発揮する医師の働きに期待したい。
市立吹田市民病院 院長 黒島 俊夫――1267