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時事

大阪バイオサイエンス研、28年の歴史に幕

府医ニュース

2015年3月4日 第2741号

次世代の大阪に必要な投資とは

 大阪バイオサイエンス研究所(バイオ研)が、3月末で28年の歴史に幕を閉じる。昭和62年の設立当時、大島靖・大阪市長、佐治敬三・サントリー社長、山村雄一・大阪大学総長、早石修・初代所長が諮問委員として関与した。経済活況期という時代背景の下、資金的余裕が大きな推進力となったが、政・財・学に先見の明があった4氏が、大阪市制100周年記念事業の一環として計画した。純粋の基礎研究を指向した試みは、その後、長田重一氏のアポプトーシス、花房秀三郎氏のがんウイルスなど世界的研究を生み出した。
 設立当初より発展予測していたとしたら、諮問委員4氏の恐るべき先見力を感じる。バイオ研では榎本和生氏の可塑的神経ネットワーク、古川貴久氏の神経発生分子モデル、小早川高氏の臭覚・情動回路形成、裏出良博氏の睡眠機構、中西重忠所長の神経伝達機構構築などが成果に挙げられる。各研究室を1カ所に集積して相乗効果を高め、ノーベル賞級の研究を継続させる構想があったと思われるが、今回、これほどまで突出した研究所に対する補助金拠出6億円の是非が問われた。これら5研究室は大学から引く手数多で、今後の研究には困らない。3年前には年間研究事業費約12億円の半額を自前で調達した。トップランナーが与える精神的な影響はきわめて大きく、解散は限りなく大阪の損失であると言わなければならない。
 しかし、財政再建の視点からは評価が一変する。平成24年5月に発表された大阪市の市政改革プランは、理由がよく分かる論理で書かれ、まさに研究的手法による方法論である。『ニアー・イズ・ベター』を原理とした住民活動と、大きな視野で動く行政との活動領域を明確に定義し、より住民の機動性を増した社会経済システムを構築し、またこれらの市民ニーズを支える行政の財政基盤を構築する。そのためには、聖域なきゼロベースの見直しで、大阪の活性化を声高にするのが橋下徹氏の構想である。バイオ研と同様、財政赤字を削減した実績があると同時に、住民に分かりやすい表現法を採る。すなわち、世界のトップレベルを更に延ばして大阪を引っ張るか、まず足下を固めるため底辺から大阪を発展させるかという、2つの論理がぶつかった。
 基礎研究が大阪市民の日常生活からは大きくかけ離れた存在になっていた上に、活動資金を大阪市に依存するバイオ研は解散となるが、不確定の未来を予測する論理のぶつかり合いは、今後の展開で判断の妥当性が証明されていく。実生活に即効性のない世界一が、本当に役に立たないのかどうか考察する必要がある。むしろ、いずれの方法も相容れるような集合的論理があれば、より大阪は発展するであろう。例えばバイオ研が、神経回路の基礎研究をそのまま継続したとしても、それを核としたニューロコンピュータ作りを目標とした社会産業構造の構築は、市民にも理解できるかもしれない。跡地を利用する理化学研究所が、スーパーコンピュータ『京』を持っているのは偶然であるが、大阪を日本のシリコンバレーにする構想を立ち上げるのも悪くない。
 聖域なきゼロベースの発想を大事にしつつも、次世代の大阪を作る産業と文化の発展のための投資は、今回のバイオ研のように零ではいけない。
(晴)