TO DOCTOR
医師・医療関係者のみなさまへ

ミミズクの小窓

シニカルな高齢者は認知症になりやすい?

府医ニュース

2014年10月29日 第2728号

 唐突な質問だが、大阪府医師会員諸兄姉の中に「人なんて自分のことしか考えていないし、平気で嘘をつく」「所詮、他人は信用できない」と思っておられる方はおられないだろうか? また、病院の会議などで「こんな会議に意味あるのか!」とか「いつも率先して何かをやる人間がバカをみる!」とか発言した覚えのある方はどうだろうか。このようなシニカルな生き方(シニシズム)、できれば改めるほうが良さそうである。〝シニシズム的不信(cynical distrust)〟度を測るスコアの高い高齢者は認知症のリスクが高まる、という論文が東フィンランド大学の研究者によって発表された(Neurology: 17;82:2205-12 2014)。
 この研究によれば、シニシズム的不信は、いくつかの交絡因子を調整しても認知症発症との関連が認められる、とのことである。因みに研究で使われたシニシズム度を測るスケールはCook-Medley Scale(本邦では何と「敵意スケール」と呼ばれている)である。このスケールが発表されたのは1954年で「ゴジラ」と同い年である。既に還暦を迎えているので今日でも通用するのかと疑問に思わないではないが、さまざまな健康問題との関連について既に多くの研究があるようだ。もともとは心理学の分野で有名なミネソタ多面人格テスト(MMPI)から〝敵意〟に関する質問を抜粋したものである。ぜひとも自分の周りの人達を対象に検査してみたいが、たぶん協力は得られないだろう。まっ、検査しなくてもだいたい想像はつくが。
 この論文の著者は、シニシズム的不信という危険因子は修正可能なターゲットであると考えているようだがホントか? 信じて裏切られたら責任とってくれるんだろうな? 振り込め詐欺にあったら弁償してくれるんだろうな?――なんてことを言うのがシニシズム的不信の徴候である。危険なサインと受け止めて、改めるのなら今のうちである。そうすれば老後の豊かな精神生活が得られるかも知れない。ほら、誰だったか、かの有名人も言っていたではないか。「トラスト・ミー」と…あっ、思い出した、あの人だった…「友愛」とかも言っていたな、確か……。
 というわけで、突然話の方向を変えるようで恐縮だが、この論文に一定の評価を与えることは吝かではない。しかしながら、結論については今後更なる研究の集積を待ちたいと考える次第である。