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時の話題

自己責任に基づく一般用検査薬の拡大は国民の健康増進に資するか

府医ニュース

2014年10月15日 第2727号

 政府の規制改革会議は3月、医療用検査薬から一般用検査薬への転用の仕組みを早期に構築し、今年中に運用を開始すべきとの提言を行った。一般用検査薬は、平成3年までに妊娠、尿糖、尿蛋白の3項目の検査薬が承認後、20年以上にわたり新規項目が認められておらず、また、再三の要請がなされたものの今日に至るまで医療用検査薬からの転用の仕組みが設けられていない。
 欧米諸国では、セルフケア領域において多様な一般用検査薬が活用されている。我が国でも、一般用検査薬の使用により国民自らが日常的に健康チェックを行うことで、早期に健康維持・増進に寄与することが期待でき、疾病の重症化を防ぐことができるとの政府の考えである。
 これを受けて厚生労働省は、薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会で、医療用検査薬を一般用として利用できるようにするための環境整備について議論を開始した。
 このような状況下、日本医師会は4月に日医会員に対して「一般用医薬品および一般用検査薬に対する意識調査」を行った。同調査では、一般用検査薬の拡大によって医療機関への受診アクセスが阻害される懸念、偽陰性の場合に受診の機会が遅れる恐れ、自分で指先から血液を採取する方法は安全性が低いことなど、数々の問題点が指摘された。
 こうした結果を踏まえ、日医は9月3日、一般用検査薬の拡大に関する見解を表明した。会見では、①セルフケアとセルフメディケーションの定義を明確にすべき、②国民の健康と安全を守るのは医師の責務、③診断と治療は医師の業務、④世界一アクセスの良い我が国のメリットを活かすべき、⑤既存の健(検)診体制を活用すべき、⑥医療は非営利、⑦国民に不安や混乱をもたらさないよう、セルフケアから医療への道筋を明確にするべき――などを示した。更に、一般用検査薬で血液を検体とすることは、感染や廃棄の問題があり容認できないとして、従来通り検体採取器具を用いない非侵襲の方法を求めている。
 一般用医薬品および一般用検査薬のスイッチOTC化に関しては、「多忙な人には有用であり一般用検査薬の使用により医療機関を受診する機会が増える」との期待も一部にはある。しかし、拙速にスイッチOTC化を進め、医師不在のまま自己責任による診断・治療の拡充を図ることは、安全性をはじめ、多くの問題を放置することとなる。利便性向上のために国民に行きすぎた自己責任を求めるのではなく、真に国民の健康に資する仕組みづくりが求められる。